韓国鉄道ストで政府と労組の対立激化


左派系野党・団体が“便乗”

 韓国で旅客・貨物列車や高速鉄道(KTX)の運行などを行う韓国鉄道公社(KORAIL)がKTX新路線の子会社化に反発して始めたストをめぐり、公社の赤字体質にメスを入れたい政府と既得権にしがみつく労組の対立が激化している。この問題に左派陣営が加勢し、反政府運動が起きる兆しも見えている。
(ソウル・上田勇実)

警察投入し首謀者逮捕企図

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23日、鉄道労組幹部を逮捕するため警察が本部に踏み込んだことに反発し、記者会見で政権退陣運動など今後の計画を発表する民主労総の幹部ら”韓国紙セゲイルボ提供

 事の発端は今月、公社がソウル南東部に位置する水西(ソウル市松坡区)を新たに始発・終点とするKTX新路線の運行を任せる子会社設立を決めたことに同公社の鉄道労組が反発し、ストに突入したこと。労組は「民営化に向けた布石」として子会社設立撤回を求める一方、政府はストの理由が労働条件とは無関係であるとして「違法スト」と位置付けている。

 公社が子会社設立に動いたのは、政府系企業の放漫経営を是正すべきだという朴槿恵政権の意向を受け、赤字経営に歯止めをかけるためだ。朴大統領は就任以来、公共部門改革と関連し「非正常的な既得権の正常化」を繰り返し訴えてきた。

 公社は現在、17兆6000億ウォン(約1兆7000億円)の負債を抱え、過去5年間で毎年2000億~7000億ウォン(約200億~700億円)の営業赤字を出し続けながら、従業員約3万人の平均年俸は6900億ウォン(約690万円)に達し、賃上げまで要求している。子会社設立は鉄道事業の寡占状態を打破し、競争原理を導入して経営体質を改善させようというのが狙いだ。

 政府と公社は、労組が子会社設立後の民営化を警戒していることから、再三にわたって「民営化の意思はない」と公式の場で表明しているが、労組は「信用できない」としてストを続行。労組がここまで強く反発するのは「貴族公社」とも揶揄(やゆ)される厚遇に安住し続けようという既得権固守が習慣化してしまったためとされる。

 だが、運行率がソウル市内の地下鉄など旅客で70%台、貨物に至っては30%台まで下がり、臨時投入された機関士の不慣れが原因とみられる事故まで発生するなど、国民の生活にも影響が出始め、今週に入り警察が4000人余りを投入してスト首謀者とみられる鉄道労組幹部の逮捕を試みた。

 この時、首謀者がかくまわれていると見込んで警察が踏み込んだのは、鉄道労組の上部組織で過激ストで有名な全国民主労働組合総連盟(民主労総)の本部。警察は100人を超える民主労総関係者らの抵抗に遭い、逮捕の“ドタバタ劇”は12時間に及んだが、結局、お目当ての首謀者に逃げられるという失態を演じ、スト終結のきっかけをつかめないままだ。

 今回のストで見逃せないのは、政府批判を強める鉄道労組の主張に“便乗”する左派陣営の動きだ。警察が民主労総本部に踏み込んだ際、現場には民主党、統合進歩党、正義党の左派系野党に所属する議員たちが駆け付けたのをはじめ、全国教職員労働組合(全教組)など左派団体のメンバーも加勢した。

 民主党は以前、金大中・盧武鉉政権の与党時代には鉄道事業の民営化に賛成していたにもかかわらず、今回は「朴政権が公安統治の断面を見せた」(金ハンギル代表)などとして全く逆の見解。このため与党セヌリ党からは「民営化反対を口実に反政府運動を広げたいのが本音ではないのか」という指摘も出ている。

 事務所を“荒らされた”民主労総は「朴政権退陣運動に突入する」と宣言し、近く、ストを決行する予定。「反保守」の本性をむき出しにしている。