南北首脳会談後の米朝対話 時間稼ぎの偽装平和攻勢

主導権握り核を諦めぬ北朝鮮

 南北首脳会談が月末に迫っている。朝鮮半島は対話モードに入り、韓国の文在寅左派政権は米朝対話まで演出しながらアクセルを目いっぱい踏み込んでいる。一触即発の危機だった1年前の状況から誰がこの展開を予想できただろうか。

 しかし、会談の議題も決まらず、ムードだけが先走りして、騒ぎが上滑りしている感は免れない。

 このままでは、過去2回の北朝鮮による“裏切り・騙(だま)し”が繰り返される恐れがある。韓国は2度も痛い目に遭っているにもかかわらず、大統領府のスタッフは「コントロールできる」と自信を示す。

 だが、外部から見ている限り、主導権は北が握り、南は利用されているように見える。「月刊中央」(4月号)に「安保・国際問題コラムニストの金(キム)永熙(ヨンヒ)元中央日報国際問題論説委員」が「深層取材・南北首脳会談以降の米朝対話の道」を書いている。

 この中で金氏は「朝鮮半島危機が“平昌”で転換点を迎え、180度方向を転じた」との認識を示しながら、平昌を訪れた北代表団に重要人物が含まれていたことを指摘した。金正恩委員長の妹・金与正党宣伝扇動部第1副部長のことではなく、統一戦線部の孟(メン)京一(ギョンイル)副部長だ。

 孟京一氏は「北朝鮮一の対南戦略家」であり、「盧武鉉政権の時、全ての公式・非公式の南北会談と接触を企画して参加した」人物である。今回、彼は「北応援団員という便利な帽子をかぶって」韓国内を自由に動き回った。彼が接触したのは「国家情報院と統一部」の幹部らであり、「平昌以後について、水面下で作業した」という。まるで「南派スパイに指示を与えた」ような行動だった。

 そして金正恩氏のメッセージが伝えられた。すなわち「非核化は祖父金日成からの遺言だった」「体制が保障されるならば、核を持つ必要がない」というものだ。金永熙氏は「驚くべき変化だ」と評価している。

 しかしこの発言は韓国内でも評価が分かれる。二つの条件は過去にも繰り返されたものだからだ。しかも「非核化」の言葉は北と南で意味が違う。韓国はもっぱら「北朝鮮の非核化」を指しているが、北にとっての「非核化」は「朝鮮半島の」という条件が付く。すなわち、南を含んだ半島全体から核兵器をなくす、という意味だ。これは在韓米軍に配備されているであろう核兵器を指しているとみるのが順当だろう。

 それらの指摘を受けつつも、韓国は南北会談を成功させ、米朝会談につなげようと必死だ。しかしながら、そこで「完全で検証可能で不可逆的な核廃棄」を北朝鮮が受け入れていくかどうかは不透明である。金氏は「北朝鮮は核を諦めない」との見通しを示す。したがって、金氏自身も「北が在韓米軍撤収と体制保障を主張すれば交渉は難関にぶつかる」と見ている。

 南北対話、米朝対話は先に行き止まりが予想される。ならばこの騒動の狙いは何か。「制裁を解除させ、核・ミサイル開発に時間を稼ぐための偽装平和攻勢」という自由韓国党など保守陣営の主張に首肯するほかない。

 金氏は北朝鮮が「100個の核兵器と性能が立証された運搬手段(ミサイル)を保有するまで、あと2年」という米ランド研究所とジョーンズホプキンス大の予測を引用した。対話歓迎ムードの中で、現実的な核の脅威をどう除去していくか。「米朝の調停者、連結の輪としての文在寅大統領の役割が最も期待される」との結論はあまりにも頼りない。わが国も対岸の火事視できないことを痛感させられる。

 編集委員 岩崎 哲