正恩氏に核放棄の意思なし

米コラムニスト マーク・ティーセン

米朝首脳会談で圧力を
限定的な攻撃も

マーク・ティーセン

 トランプ大統領がマイク・ポンペオ氏を国務長官に指名し、今後、承認手続きが進められる。北朝鮮の独裁者、金正恩氏との会談を控えるトランプ氏に間もなく、信頼できる助言役ができる。ポンペオ氏がまずしなければならないことは、交渉に臨むトランプ氏に、北朝鮮は交渉の場で核兵器を放棄するつもりはないことを理解させておくことだ。

 金氏は、イラクのサダム・フセイン氏の拘束後、リビアの独裁者ムアンマル・カダフィ氏がリビアの核開発計画すべてを放棄し、ウラン、遠心分離機、爆弾の設計図を米国に引き渡した後、どうなったかを知っている。核放棄の7年後、オバマ政権はリビアへの軍事介入を開始し、カダフィ氏は反政府勢力に殺害された。残忍な殺害の動画を金氏も見たし、カダフィ氏が核を保有し続けていれば、そのような事態にはならなかったと思っている。

 さらに、ソ連崩壊後、保有していた約2000発の核兵器を放棄したウクライナがどうなったかもよく知っている。ロシアは1994年12月、ウクライナの核放棄と引き換えに「安全保障に関するブダペスト覚書」に署名。「威嚇や武力の行使で、ウクライナの領土的一体性と政治的独立を脅かすことは控える」と約束した。ところが2014年、ロシアは非核化したウクライナに侵攻し、クリミアを併合した。

◇狙いは米軍撤収

 このような歴史を見た金氏が、「3度目の正直」があると考えるとは思えない。金氏がトランプ氏に完全非核化を約束しても、それは破られる。正恩氏の父は1994年に核開発計画を放棄することで合意したが、その合意は破られた。金氏が交渉のテーブルに着くのは、カネを巻き上げ、米軍を朝鮮半島から撤収させるためだ。それができれば、半島を北朝鮮の支配下で無条件に統一するという最終目的の達成への道が開かれる。

 ならばなぜトランプ氏は、金氏とわざわざ会談すべきなのか。核ミサイルで米国の都市を脅かそうという試みをやめなければ、軍事行動を取ると本気で考えていると、金氏に知らせる唯一の手段なのかもしれないからだ。私は1月、ポンペオ氏にアメリカン・エンタープライズ研究所で会った際に、金氏はトランプ氏が本当に軍事行動の引き金を引くと思っているかと聞いた。中央情報局(CIA)長官のポンペオ氏は、「金氏が正確な情報を得ていないのではないかと懸念している。幹部が金正恩氏に悪い情報を知らせるとは思えない」と答えた。

 面と向かって会えばトランプ氏は、金氏の目を見ながら、米国の都市に到達可能なミサイルの配備は認められないと言うことができる。このまま進めば、米国は、軍事行動を起こし、核とミサイルを破壊せざるを得なくなる。攻撃は限定的なものになるが、報復しても、いずれにしても現体制は終わる。私はそれを望んでいないが、決定するのはそちらだ。そう言うことができる。

◇全面戦争発展も

 金氏がこれを受け入れず、核ミサイルの開発を進めれば、トランプ氏は言った通り限定的な攻撃を行うことになる。これは、金氏に公に恥をかかせないようにするために秘密裏に進めてもいい。全米アジア研究所(NBR)のリチャード・エリングス氏は、北朝鮮の潜水艦が急に、忽然(こつぜん)と海中から姿を消し始めることもあり得ると指摘した。北朝鮮の指導部以外は誰も知りようがない。制裁の強化とともに、トランプ氏が本気であることを金氏に確実に知らせるメッセージとなる。

 それでも金氏が開発を進めれば、米国は北の核・ミサイル施設、ソウルに向けられている火器を破壊する準備をしなければならなくなる。しかし、米国が軍事行動を取り、金氏が考え違いをしていれば、全面戦争にエスカレートするリスクがある。そうならないためにトランプ氏が金氏と会うことが重要となる。すべての選択肢がテーブルの上にあると本気で言っていることを金氏に納得させるには、実際に会って威嚇するしかないのではないか。

 トランプ氏がこれに成功し、弾道ミサイルの開発を停止させられても、まだ完全な非核化は達成できないかもしれない。だが、それでも、金氏に米国の都市を人質に取られたり、守る気のない非核化合意のために大幅な譲歩をするよりもはるかにいい。

(3月16日)