文新政権の外交安保政策
現実離れした“橋頭堡”構想 南北関係改善の鍵握る文教授
李明博(イミョンバク)・朴槿恵(パククネ)政権の10年間で完全に膠着(こうちゃく)状態となった南北関係は“親北”と呼ばれる文在寅(ムンジェイン)新政権の登場で改善されるのか―。政権発足1カ月を見守ってきた韓国民の目には何の変化も映っていないのが実情だ。
そもそも、文在寅大統領の南北政策、対北政策は何かが明確にはなっていない。新政権の陣容をみれば、過去の南北首脳会談に関わった人員等を配置し、南北関係改善に取り組む体制は組んでいるように見える。
その核心人物は延世大名誉特任教授の文正仁(ムンジョンイン氏だろう。統一・外交・安保特別補佐官として青瓦台(大統領府)入りした。
「月刊朝鮮」(6月号)が文教授にインタビューしている。同教授は金大中(キムデジュン)・盧武鉉(ノムヒョン)政権の対北包容政策(太陽政策)と東北アジア平和繁栄政策樹立に深く関わった。さらに2000年と07年の南北首脳会談に特別随行員として同行もしている。文大統領が金・盧路線を引き継ぐのなら欠かせないブレーンなのである。
文教授は、文在寅大統領の対北アプローチについて、「米国を驚かせるほどの対北接触はしないだろう」との見通しを示す。大統領自身が「韓米同盟を基礎に国益を最優先する実用的路線をとる」と言っており、これまでの“親北”イメージとは違う現実路線を見せそうだ。
肝心の文大統領の外交安保構想だが、文教授は同誌に対し、「韓半島経済共同体をつくって、韓半島を大陸経済と海洋経済を構成する“橋頭堡(きょうとうほ)”にし、それを通じて韓半島平和と経済成長動力をつくろうというものだ」と説明した。
これまでも盧武鉉氏による「外交のバランサー」論が提唱されたことがあったが、超大国の角逐の中で、北朝鮮を抱えて、調整役を果たす力量が韓国にあるわけでなく、画餅(がべい)に終わっていた。その伝で言えば「橋頭堡」は現実路線とは程遠い。
朴槿恵政権でさえ、あまりにも中国に肩入れしたために、米国から牽制(けんせい)を受け、日韓関係を悪化させ、結果、韓国は外交的信頼を失っただけだった。この“教訓”は省みられていないようである。
ただ、「韓米関係を調整するのが重要だ」として、2国関係を基礎に置こうとしている点は評価されるが、サード(高高度防衛ミサイル)の在韓米軍基地配備をめぐって、米韓関係が微妙な中、その基礎をつくっていけるのかどうかが注目される。文教授はどうアドバイスしていくのだろうか。
同誌に統一研究院の孫基雄(ソンギウン)院長が南北統一のビジョンを明らかにしている。孫院長はベルリン自由大学博士課程に在学中、ベルリンの壁崩壊から東西ドイツの統一を目撃してきた。
孫教授の統一論は、東独住民が“自ら壁を越えてきて”統一が実現したように、韓半島の「統一は北朝鮮住民たちによってなされる」というものだ。「平和統一を達成できる唯一の道は北朝鮮住民たちの決断だ」というのである。
これは、南が自由民主主義や人権尊重などの価値観と資本主義経済等の体制の優位性が確保されていて初めて可能で、そもそも、北住民が南の情報を知ることができ、その結果、北住民が望んで(憧れて)南の体制に組み込まれようとしなけば実現しない。
そのためには「南北交流が再開されなければならない」という理屈である。「東西ドイツの交流協力が東独住民の目と耳を開いた」ように、北住民が南の豊かで自由な社会を知ることが前提となる。
しかし、南北間での交流では、北は徹底して、南に接触する住民の「思想チェック」を行い、韓国の豊かさや自由に動揺しない人員しか、南北交流の場には出してこないのが現実だ。
そして、より身近で現実的な“憧れ”は南ではなく北にもある。体制が近く、比較的行き来が自由な中国を選ぶということは、統一研究院では想定していないのだろうか。
編集委員 岩崎 哲