韓国のカトリック教会“親北ミサ”で波紋
延坪島砲撃巡り北朝鮮擁護
韓国のカトリック教会で北朝鮮の武力攻撃を擁護したり、大統領下野を主張するミサが行われたことが分かり、波紋を広げている。宗教界による政治介入ともいえる事態に保革対立が鮮明な韓国社会は敏感に反応している。
(ソウル・上田勇実)
朴大統領「黙過しない」
韓国メディアによると、カトリック教会・正義具現司祭団の全州(全羅北道)教区支部に所属する神父たちが22日、南西部の群山市にある聖堂でミサを行った際、ある神父が説教で「(海上の南北軍事境界線である)NLL(北方限界線)で米韓軍事演習が続いた場合、(北朝鮮は)どうすべきか? 北朝鮮としては砲撃するでしょう。それが延坪島砲撃」と述べた。またこの神父は「哨戒艦(撃沈)事件も北朝鮮の魚雷攻撃によるものだと納得できるか」とも言ったという。
ミサの翌日、23日は延坪島砲撃事件から3年が経(た)つ日。北朝鮮の武力攻撃で軍人2人、民間人2人の計4人が犠牲になった事件の記憶はまだ新しく、追悼の雰囲気が広がる中での発言だったため、メディアはこれを大きく取り上げた。
正義具現司祭団は朴正熙政権などの軍事独裁に反対し民主化運動を行ったが、1987年の大韓航空機爆破事件の捏造(ねつぞう)説を主張したのをはじめ、08年の米国産牛肉輸入や在韓米軍移転、米韓自由貿易協定(FTA)などに反対し、政権退陣を叫んだいわく付きの左翼キリスト教団体でもある。「正義具現」ではなく「従北具現」だ、などと保守系メディアから揶揄(やゆ)されている。
問題のミサは今しきりに話題になっている情報機関による昨年大統領選への不正介入疑惑に怒った同司祭団が全国を巡回して行っている時局ミサの一環だが、この日は初めて朴槿恵大統領下野を主張した。「大統領は辞任せよ」と記したプラカードを手にした神父らが信徒らが見守る中、聖堂内に入ってくる姿はどう見ても異様だ。
さまざまな宗教・宗派が根付く韓国では聖職者の社会的地位は日本より高いといえるが、その地位を利用した政治的発言に反発が広がっている。
まず韓国カトリック教会ソウル大教区長は説教で「司祭が直接政治的、社会的に介入するのを教理では禁止している」と戒め、保守系団体も「大統領退陣要求は大韓民国を揺さぶり、北朝鮮政権に付和雷同するもの」と批判。カトリック信徒の精神的支柱ともいえるソウルの明洞聖堂に爆弾を仕掛けたという脅迫電話が入り、今回の事態に憤慨した男性が取り押さえられるという騒ぎまで起きた。
政界でも論争に発展し、司祭団が野党陣営連帯に関与しているとして野党攻撃の材料にしているのに対し、野党は神父たちを政権批判に駆り立てているのは政府自身だとして逆に政府・与党に責任があると指摘するなど、問題は政治争点化しつつある。
波紋が広がる中、朴大統領は青瓦台(大統領府)での会議で「今後、私と政府は国民の信頼を低下させ、分裂をもたらすようなことは容認しないし、黙過しない」と語り、この種の問題に厳しい姿勢で臨むことを表明した。
韓国では李明博政権初期に大規模な退陣運動が展開された時、韓国仏教最大宗派の曹渓宗が李大統領への敵意をむき出しにしたり、反政府デモの首謀者たちをかくまったりするなど、近年、宗教界の反保守志向が目立つ。宗教指導者が為政者に健全なアドバイスをする域を出て、偏った理念に基づいた政権退陣運動を扇動していることから、信徒離れを懸念する声も上がっている。