北朝鮮主張の「水爆」実験、保有なら大きな脅威
宮塚コリア研究所代表 宮塚利雄
中国の制裁で死活問題にも
金正恩(キムジョンウン)朝鮮労働党第1書記は昨年12月10日、平川革命史跡地(事業地)を現地指導した時に、「水素爆弾の爆音を轟(とどろ)かせることができる」と発言していた。6日の実験が実際に水爆だったかどうかは分からないが、何らかの実験が成功したことは間違いない。
このタイミングの意味は不明である。昨年10月10日の党創建70周年前後に核実験をするかもしれないと観測されていたが、結局何もなかった。だが、既にこの時点で実験の準備は完了していた可能性もある。
1月8日が自身の誕生日に当たっているとか、2月に予定されている米韓合同軍事演習を牽制(けんせい)するものだとか、さまざまな分析があるが、しょせん独裁者が行うことだ。「やる」と言った時が実行の時で、それに必ず意味付けがあるわけではない。
5月に36年ぶりに労働党大会を行うが、権力継承して4年が経(た)ちながらも、金正恩には内政、外交で目に見える実績がない。しかし「わが祖国は強大な核保有国となった」というのは大きな実績になり得る。現在、水爆保有国は米英仏露中の5カ国だけで、その「隊列に並んだ」ことは北朝鮮にとっては大きな意味がある。
北朝鮮の最大目標は南北統一と対米平和協定締結だ。米国との間には韓国動乱の休戦協定が結ばれている。これを平和協定にし、国交正常化交渉を行いたい。核開発やミサイル発射実験は米国の関心を引き付けるためのものだ。
しかし、米国の目は「イスラム国」(IS)やイラン・サウジアラビアの断交など、中東情勢に向けられており、北朝鮮への関心は低い。それが実験によって米国は相当に慌てたのではないか。水素爆弾には否定的な見方を示しているが、実験の兆候を掴(つか)んでいなかったようで、不意を突かれた。実験の狙いはある程度果たされたと言っていい。
実験は国連安保理決議に違反したものだ。追加制裁が検討されている。中国は北朝鮮に対して、実験をするなと止めていたが、これまではあった事前通告もなしに強行されてしまい、メンツは丸つぶれだ。だから中国は追加制裁には反対しないだろう。
北朝鮮の貿易の90%は中国とのものだ。特に3月までに北朝鮮は大量の肥料を必要とする。中国から肥料が来ないと、今年の収穫が大幅に落ち込むことになり、死活問題となる。韓国の民間団体が「人道支援」を名目に支援を続けるかもしれない。
米国から無視され、中国が安保理制裁に反対しなければ、何のために実験を行ったのか、ということにもなりかねないが、北朝鮮が水爆を保有するとなれば、新たな不安材料となり、大きな脅威となるのは事実だ。
(聞き手・岩崎 哲)






