韓国でも少子化に危機感 対策に「アベ・モデル」注目
猛烈なスピードで少子化が進む韓国。政府は近年、その対策にようやく本腰を入れ始め、「人口1億人維持」を宣言した第3次安倍晋三内閣の取り組みにも触発されている。最近の韓国の「人口危機」をまとめた。(ソウル・上田勇実)
人口1億維持宣言に触発
過大な教育費負担が主因
朴大統領「今後5年で克服を」
韓国大統領直属の低出産(少子化)・高齢社会委員会が主催する公聴会が先月ソウルで開かれ、出席したある大学教授から次のような発言があったという。
「安倍総理が側近を1億総活躍担当相に任命し、50年後にも人口1億を維持すると明らかにした。韓国も日本のように低出産問題を担当する閣僚が必要だ」
韓国主要紙の一つ東亜日報社が発行する週刊東亜は「アベ総理の低出産克服に向けた『アベ・モデル』が韓国で注目を集めた」と報じた。
日本の少子化対策はアベノミクスの新たな「3本の矢」の一つに「希望出生率1・8」として加えられている。安倍政権の意気込みに韓国は少なからず影響されているようだ。
韓国の少子高齢化は深刻だ。統計庁のまとめによると、昨年1年間の出生児数は43万5400人で統計を取り始めた1970年以降、05年に43万5000人を記録したのに次いで2番目の低さだ。
女性1人が生涯に出産すると予想される平均出生児数を示す合計特殊出生率は、83年に人口の自然増と自然減の境目とされる2・07を初めて下回り、それ以降30年以上1台にとどまったまま。昨年も1・205人で「超低出産国」(1・30以下)から抜け出せずにいる。
韓国の総人口は2030年に5216万人まで増えるのを最後にそれ以降は減少し始めるとみられているが、中でも経済活動を支える満15歳以上、満65歳未満の生産年齢人口は2年後の17年から減少し始めることが予想されている。
国力衰退につながる人口減を目前にし、朴槿恵大統領も「来年から5年間がわが国が人口危機に対応するゴールデンタイム」と述べ、危機感を募らせている。
これほどまでに韓国の少子化が進んだ原因は何か。一番多い指摘は、子供の教育にかかる経済的負担が昔と比べ桁違いに大きくなったということだ。
保健福祉省によると、11年に実施した世論調査で子供を産まない理由として最も多かったのは「子供の養育・教育費負担」で全体の60・2%に達した。韓国開発研究院(KDI)の報告書によれば、家計の支出に占める教育費(学習塾など課外教育費含む)の割合は09年基準で7・4%。日本(2・2%)をはじめ米国(2・6%)やフランス(0・8%)など主要先進国と比較すると際立って多い。
また生まれてから小中高大学まで通わせる教育費と結婚費用を合計した子供1人にかかる費用は12年基準で約3億5000万ウォン(約3700万円)で年々増加傾向だ。
韓国は儒教文化が根強く残る社会で、特に親たちの教育への過度な関心・干渉・支出で有名だ。子供たちの学校生活は運動系のクラブ活動が盛んな日本のような文武両道ではなく、ひたすら勉強に明け暮れる「文文一道」の国だ。一流大学に合格し、財閥系企業に入ることを目標に上位数%を目指す過当な競争意識が社会全体に広がっていることも、これに拍車を掛けている。
しかも膨らむ一方の課外教育費に圧迫される形で減らさざるを得ない支出項目の一番が「老後の備え」(57・2%)。多くの親が自分の老後を犠牲にしてまで子供の教育につぎ込んでいるわけだ。
このほか将来への不確実性や出産による女性のキャリア断絶、晩婚化・非婚化、法外な結婚費用なども少子化につながっているとみられている。
結婚費用の場合、韓国の結婚文化の一つに「婚需(ホンス)」というのがある。新婚生活をするに当たって必要な家財を新婦側が用意し、新郎側は家を準備するというものだ。ある統計によると、婚需を含めた結婚費用は平均2億4000万ウォン(約2500万円)だといい、仮に会社員とOLが結婚する場合、自力でためるにはかなりしんどい額で、事実上、親頼みとなる。豪華な結婚式を好む風潮も問題視され、マスコミが「質素な結婚式をやろう」というキャンペーンを展開するほどだ。
結婚に伴うこうした費用負担が壁となり、当初の希望よりも結婚時期を遅らせるカップルが続出し、その結果、晩婚化、低出産に拍車が掛かっているとみられている。
政府は巨額の予算をつぎ込んで対策を講じてきたが、小手先の制度改革では到底追い付かず、試行錯誤の連続だ。
「アベ・モデル」などとちやほやされるほど日本の政策がお手本になるのかは別とし、日本の取り組みにすぐ刺激されるほど韓国の少子化問題が待ったなしであることだけは確かだ。






