波紋呼ぶ性的少数者の主張 韓国にも価値観多様化の歪み

「同性婚」届拒まれた男性映画監督が提訴

左翼支持、いぶかる保守派

 同性婚の認定を求める訴訟や性的少数者による都心での集会など、このところ韓国では同性愛者たちが声高に自分の主張をし始めている。一般的な国民情緒とは懸け離れ、伝統的な儒教精神や聖書の教えに真っ向から反するため宗教界の反発も根強いが、価値観の多様化でこうした動きに歯止めを掛けるのは容易ではなさそうだ。(ソウル・上田勇実)

日刊紙の社説二分「流れに乗り遅れている」家庭と社会の規範破壊」

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同性婚で話題の韓国映画監督、金趙光秀さん(左)と金承煥さん=韓国紙セゲイルボ提供

 韓国の映画監督、金趙光秀さん(50)が、一昨年に結婚式を挙げていた映画製作会社代表の男性(30)との「同性婚」届を役場に出そうとして拒否されたため、ソウル西部地裁に起こしていた不服申し立ての裁判の初公判が先月開かれた。

 公判前、2人は記者団に「愛の資格は(互いに)愛しているということだけで十分であり、法もまた国民の幸福追求権のため存在する。大韓民国の国民はおしなべて法の前に平等だという憲法の精神が法廷で明らかにされるよう最善を尽くす」と述べた。

 同性愛や同性婚に対する否定的な世論が大勢を占める韓国で、この種の裁判はもちろん初めて。ちょうど米国で同性婚を禁止した州規定に連邦最高裁判所が違憲判決を下し、全米で同性婚が認められるようになったばかりだったためか、韓国メディアの注目度も高かった。

 金監督は若い頃、兵役で入隊し、同性愛を直そうとしたが、逆に「同性愛的な傾向が満開」(金監督)してしまい、女性がいない軍隊は天国のようだったようだ。北朝鮮との軍事境界線に近い江原道鉄原郡の師団に配属された時、同じ同性愛者の下士官、兵長と男同士の三角関係に陥ったという。ピリピリした緊張感が漂うはずの最前線で、およそ想像だにできない軍紀の乱れがあったわけだ。

 同性愛先進国とも言える欧米とは違い、性に対しまだ保守的であるアジアで初の同性婚が合法化されるのか。今回の裁判はそんな話題も呼び起こしている。

 ゲイやレズビアンなどの同性愛者以外にもバイセクシュアル(両性愛者)やトランスジェンダー(性自認が身体的性別と一致しない状態の人)を含めたいわゆる性的少数者たちによるイベントも韓国では白昼堂々と行われるようになった。

 代表的なのは、性的少数者の権利擁護を訴える「性的少数者文化祝典」。今年で16回目を数え、「愛せ、抵抗しろ、クィア(性的少数者)レボルーション(革命)」をテーマに先月、約3週間にわたって行われ、ソウル中心街ではパレードもあった。「少数者に対する世間の認識変化を促し、性的少数者に矜持(きょうじ)を持ってもらう」(主催者)のが狙いだ。

 開幕式は集会デモのメッカといわれるソウル市庁前広場で、また関連グッズの販売は普段、市民の憩いの場となっている市庁舎地下の広場でそれぞれ行われた。近年は反対派による妨害などが目立つというが、興味深いのは左翼弁護士出身の朴元淳ソウル市長が性的少数者の理解者として知られ、市長の裁量があったからこそこの種のイベントがソウルのど真ん中で実現したのではないかとの見方が出ていることだ。

 事あるごとに保革対立が表面化する韓国の世論は、一連の同性愛問題をめぐっても賛否両論に分かれている。社会的弱者や貧者の救済、人権擁護を政治的スタンスとする左翼は容認、伝統的な家族の価値観や旧来の結婚の在り方を重視する保守派が反対という構図だ。

 左派系日刊紙ハンギョレ新聞は社説で「米連邦最高裁の決定は同性婚合法化が地球村で後戻りできない流れになったことを示している」が、「わが国はこの流れに乗り遅れている」ため、「性的少数者が差別されないために国家が乗り出すのは選択ではなく義務」と主張している。

 これに対しキリスト教系保守紙の国民日報は「同性愛は家庭と社会の健全な規範、秩序を破壊し、文化的・性的堕落という危険性もはらんでいる。(中略)性的少数者の人権は配慮されるべきだが、社会の安全と秩序が維持される範囲内で考慮すべきこと」(社説)と指摘。また聖書の一節に「イエスは答えて言われた、『創造主は初めから人を男と女とに造られ、そして、言われた、それゆえに、人は父母を離れ、その妻と結ばれ、ふたりの者は一体となるべきである』。」(マタイによる福音書第19章4~5節) とあると紹介しながら脱同性愛を訴えた。

 急速な近代化、民主化の影響で一挙に価値観の多様化が進む韓国だが、果たして同性愛に対する最終的な答えはイエスかノーか…。