韓国が高高度防衛ミサイル導入
朴大統領の安保の本気度いかに
韓国が北朝鮮の武力挑発を念頭にした韓国版ミサイル防衛体系(KAMD)を進める中、高高度防衛ミサイル(THAAD=サード)を導入する可能性について中国が初めて公式に反発した。近年、中国傾斜を強める朴槿恵大統領にとり、どこまで本気でミサイル防衛網を構築するかは「安全保障上のリトマス試験紙」(元防衛省幹部)になるとみられている。(ソウル・上田勇実)
日米と対北防衛で連携か
中国反発を意識し保留か
「反対するという立場を明確にする。サード配備は中韓関係に悪影響を与えるだろう」。邱国洪・駐韓中国大使が先週、韓国国会で行われた懇談会でこう述べたことが明らかになった。
邱大使は「韓国に配備されるサードは射程2000㌔くらいあり、これは北朝鮮のミサイルへの防御という目的を超え、北朝鮮ではなく中国を目標にしたものだという認識を持っている」とし、「北朝鮮ミサイル防御の効果はなく、中国の安保にとって害になる」と述べたという。中国政府はこれまでにも韓国のミサイル防衛体系構築に難色を示してきたが、サード導入を名指しで批判するのは初めてだ。
サードは米国が開発した弾道弾迎撃ミサイルシステム。現在、弾道ミサイルの迎撃は同じく米開発の地対空ミサイル・パトリオットのPAC―3が主役だ。旧世代のパトリオットは湾岸戦争の際、イラク軍が発射したスカッドミサイルを撃ち落としたことでも知られる。
だが、パトリオットは敵のミサイルを終末航程で迎撃するため、地上への被害が出る可能性が高く、高速で飛来してくる中距離弾道ミサイルへの対応にも限界があるといわれてきた。このため成層圏より上の高度50㌔以上の高高度で目標を迎撃することが必要となった。そのために開発されたのがサードだ。
サード配備をめぐり韓国メディアが「サードシステム1個砲隊を京畿道平沢にある米軍基地に配備することで米韓両国が最終調整に入った」と報じたことやベストセラー作家、金辰明氏による小説「THAAD」が話題を呼ぶなどし、韓国社会でサードへの関心が高まりつつある。
核実験や長距離弾道ミサイル発射などで周辺地域に深刻な脅威を与えている北朝鮮に対抗するため、朴大統領は就任以来、一貫して「しっかりした安保」を強調してきた。しかし、肝心のミサイル迎撃能力はこれまで極めて脆弱(ぜいじゃく)なものだった。
昨年10月、軍創設65周年の記念行事で朴大統領は「強力な米韓連合防衛体系を維持しながら、キル・チェーン(敵の攻撃を事前に察知して先制攻撃する防衛システム)とKADMを早期に確保する」と演説した。これらについては、2020年までの構築を目指すことが明らかにされている。
また米国防総省傘下の国防安保協力局は、PAC―3の韓国販売計画を米議会に通知したことが先月明らかになった。韓国独自のミサイル防衛体系の構築は着々と進んでおり、サード配備はその「総仕上げ」ともいえる。
中国が韓国のサード配備に反対するのは、射程の長さに加え、レーダー探知範囲が1000㌔に及び、北京や上海などの主要都市のほか軍事施設をカバーするためだといわれる。韓国にとって問題は、実質的に日米韓の連携で進めてきた対北抑止に、近年、朴大統領が関係を重視している中国が反発し、「日米韓の枠組みにとどまるか、それとも中国に配慮して日米韓の枠組みから出るか」という二者択一を迫られていることだ。
今のところ韓国はまだ中国に引きずられているという印象だ。有力紙の一つ、中央日報はコラムで「中国市場だけを眺め、カネをもうける工夫ばかりせず、疎通の空間を広げて戦略的利害の共通分母を探すべきだった」と指摘し、安保分野でも中国との協力を模索するという“幻想”を抱いている。
また反対世論も壁になる。反米左翼勢力が国民を扇動したデモを行い、経済政策などに不満を持つ国民をたきつけて反政府運動につなげる可能性もある。
韓国が最も警戒しなければならないのは、日米が対中国で「韓国抜き」を検討し始めているという点だろう。北東アジアの安保にとって中国を「脅威」とみなさず、「戦略的利害の共通分母を探すべき」相手と認識するなら、日米から見放される危険があることを知るべきだ。韓国がサードを配備するか否かは、極端に言えば日米との関係を維持するか否かという問題でもある。