米韓、半島有事の指揮権移譲に待った

北の脅威念頭、20年代半ばに

 現在、米軍が持っている韓半島有事の軍事指揮権に当たる戦時作戦統制権を来年末に韓国軍に移譲させる予定だった米韓両国が、北朝鮮による軍事的脅威が引き続き高い現実を念頭に移譲時期を延期することで合意した。韓国独自のミサイル防衛体系などが確立される2020年代半ばをめどにするという。
(ソウル・上田勇実)

「15年統一大戦」警戒感露わ

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上陸したAAV-7から降車し臨戦態勢に入る海兵隊員ら(4月1日、韓国浦項市)

 ヘーゲル米国防長官と韓民求・韓国国防相はこのほどワシントンで安保協議会を開き、作戦統制権の移譲時期を延期することで合意した。韓国軍が独自に北朝鮮の軍事的脅威に対処できることを条件に2020年代半ばを目指す。

 移譲後、韓国軍が独自に北朝鮮に対抗する手段としては、北朝鮮の核やミサイルを事前に探知し、先制打撃を加える「キル・チェーン」や韓国型ミサイル防衛体系(KAMD)が想定されている。米韓は米韓連合司令部本部を漢江以北に位置する竜山基地に残留させることなどでも合意した。

 韓国メディアによると、韓国はキル・チェーンやKAMDに向け、▽軍事偵察衛星の確保▽高高度無人偵察機グローバルホークの導入▽射程500~800㌔の地対地弾頭ミサイル開発▽射程600㌔の長距離空対地誘導弾の導入▽PAC3迎撃体系構築――などに取り組むという。

 作戦統制権は、反米・自主国防路線を掲げた盧武鉉政権と海外軍隊再編の必要に迫られていた米国との間で、12年に韓国軍に移譲させることで合意したが、保守系の李明博政権で移譲時期を15年末に延期することで修正合意。しかし、その後も核実験や長距離弾道ミサイル発射、延坪島(ヨンピョンド)砲撃をはじめとする北方限界線(NLL)付近での軍事的挑発行為などが続き、韓国国内では移譲慎重論が根強かった。

 今回の合意で目を引くのは、移譲時期を特定していない点だ。移譲には「韓国軍が増大する北朝鮮の脅威に対処する防衛能力を確実に保有する」(ヘーゲル長官)ことが条件とされ、時間で線引きするのではなく中身で判断することになった。

 合意を受け、韓国国内は例によって「右派歓迎、左派反発」の様相を呈している。退役軍人でつくる組織、大韓民国在郷軍人会は新聞への意見広告で「作戦権(移譲)はプライドの問題ではなく、生存の問題」と指摘し、その正当性を強調。一方、左派系野党・新政治民主連合の議員らは国会で韓国防相に「軍首脳部の魂のない合意」「第2のウルサ保護条約(1905年の日韓協約)」などと詰め寄った。

 北朝鮮の軍事的脅威に対する韓国軍の認識は厳しい。国防省は今月、国会での報告で「北朝鮮は15年を『統一大戦完成の年』と宣布しており、実戦訓練と戦力増強で全面戦の準備をしている」と警戒感を露(あら)わにしている。

 またスカパロティ在韓米軍司令官は最近、「北朝鮮は核弾頭の小型化技術を保有している」と発言し、核小型化が時間の問題であることを改めて示唆した。

 韓国では北朝鮮が軍事的挑発をするたびに作戦統制権移譲問題をめぐる論争が起こり、不安が残る単独防衛に向け「悲壮な決意」を迫られてきたが、今回の合意はより現実的選択をしたものとして日本をはじめ周辺友好国にとっても安心材料となりそうだ。