行き詰る“ポピュリズム公約”-韓国
年金一律支給できず修正
韓国で65歳以上のお年寄り全員に一律20万ウォン(約1万8000円)の年金を支給するという朴槿恵大統領の公約が修正を余儀なくされ、さまざまな波紋が広がっているが、こうした“ポピュリズム(大衆迎合主義)公約”は財源確保の見通しが立たないまま票欲しさでぶち上げたものが多く、中道左派に一部政策の軸足を移したツケが回ってきたともいえる。
(ソウル・上田勇実)
民生政策左傾化のツケ?
65歳以上の全高齢者に月20万ウォンの基礎年金を一律支給する――。これは朴大統領が語った大統領選の選挙公約だった。しかし、このほど政府は財源確保の見通しが立たないと判断してこれを断念、所得上位30%を支払い対象から除外し、残り70%も国民年金の掛け金支払いと連動させる修正案を発表した。
朴大統領は国務会議(閣議)で「全てのお年寄りに支給できない結果となり申し訳ない気持ち」と謝罪。景気が好転して税収がアップすれば元の公約通りに実行すると言っているが、野党からは「公約破棄」「詐欺だ」などという批判を浴びせられている。
公約の見直しはこれだけで収まりそうにない。来年度からの段階的導入が期待されていた高等学校無償化のほか大学授業料半額化などの公約も予算不足で縮小、あるいは実行されても遅れは避けられないという指摘が出ている。
朴大統領は昨年の大統領選で「庶民の幸福」を何度も強調し、福祉や教育、医療の拡充などを公約の目玉に掲げた。だが、その一方で専門家からは財源確保を疑問視する声も上がっていた。結果的に当選後に現実の壁にぶつかったわけだ。
朴大統領は今回、年金支給を修正しながら任期中には必ず成し遂げると再度公約まがいの発言をしているが、もし景気回復が遅れた場合、財源確保ができないまま「2度公約を破る」ことになりかねない。
朴大統領はかつて父、朴正熙元大統領が成し得なかった夢として「福祉国家建設」を語ったことがあり、福祉は持論とも言えるが、それはあくまで保守政治家としての青写真だったはず。ところが、昨年の大統領選では福祉をはじめ民生分野の政策で中道左派路線に軸足を移した。これがもともとこの分野に強かった野党のお株を奪うかたちとなり、選挙戦略の面では勝った。
だが、これらを支える財源確保の見通しがどこまで綿密だったかは定かでない。朴大統領としては、中道左派路線を選んだツケが任期1年目に早くも回ってくるとは予想し得なかったかもしれない。
韓国は近年、学校給食や保育園料などを国や自治体が全額負担する「無償化ブーム」が広がっていたが、最近になって財源不足から縮小・放棄宣言するところも出始めている。これも選挙に勝つための政治家たちの方便だった可能性がある。
日本でも民主党政権時代に目玉の公約だった子供手当の支給が迷走し、縮小修正された。財源を度外視したポピュリズム公約は必ず壁にぶつかるという隣国の教訓をぜひ生かしてほしいところだが…。