ローマ法王訪韓 南北対話強調、朴政権に“宿題”

弱者目線で「無言の忠告」も

 フランシスコ・ローマ法王は4泊5日の訪韓期間中、各地のミサなどを通じ繰り返し「平和」「和解」「対話」を強調したが、南北関係や国内政治で多くの課題を抱える朴槿恵政権にとっては“宿題”を出された形となった。また貧者・弱者の目線に立つ法王の振る舞いは、権威主義がはびこる韓国社会に「無言の忠告」となったようだ。
(ソウル・上田勇実)

融和政策への転換は困難か

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「聖母被昇天の大祝日ミサ」を行ったフランシスコ・ローマ法王=15日午前、韓国大田市の大田W杯競技場

 訪韓最終日の18日、法王は自ら「最後のクライマックス」と位置付けたソウル明洞聖堂でのミサで、韓半島分断で独裁国家・北朝鮮との統一を国家的課題として抱える韓国の現実を念頭に「人間の視点で見ると不可能で非現実的、時には拒否感を抱くものでも、キリストの十字架が全ての分裂の溝を埋め、兄弟愛を実現する本来の連帯を再建する」と述べ、「これからは対話し、会い、違いを克服するための機会が生じるよう祈ろう」と促した。

 また「助けが必要な者たちには人道主義的支援を提供する寛大さ」も注文。北朝鮮への食糧支援を求めた。

 ミサには朴大統領も参加。核開発やミサイル発射などの挑発的行動をやめない北朝鮮に対し、毅然(きぜん)とした態度で臨む朴大統領が、これまでの対北朝鮮政策を見直し、融和政策に転換するとは考えにくいが、南北関係の冷え込みに責任を持つ立場としては難しい“宿題”を出された形だ。

 北朝鮮の対南政策を統括する金養建・統一戦線部長は17日、金大中元大統領5周忌の弔花を受け取りに北朝鮮の開城工業団地に赴いた野党・新政治民主連合の朴智元議員ら金元大統領の側近らに対し、朴政権の対北政策に不満を漏らしたという。

 来月、韓国・仁川で行われるアジア大会には北朝鮮があの“美女軍団”と呼ばれる女性大応援団を引き連れ、韓国社会に対北融和ムードを広げるソフト戦略を展開することも予想されている。

 こうした北朝鮮の「仕掛け」は、韓国に対北融和世論を喚起させ、韓国政府が独自的に行っている北朝鮮への経済制裁を解除し、2008年以来中断している金剛山観光を再開させるのが目的との見方が広がっている。法王の「お言葉」といえども、そう簡単に融和政策に舵(かじ)を切れるものではないだろう。

 一方、法王は訪韓期間中、貧者・弱者の目線に立っていたという指摘が韓国メディアなどで盛んになされている。移動で使われた車両が小型だったり、韓国の聖職者たちに「自分たちが豊かであるのは偽善だ」と戒めたり、旅客船「セウォル号」沈没事故の犠牲者遺族を格別に慰労したり…と。

 大手紙・朝鮮日報コラムは「韓国は弱者が生きにくい社会。エレベーターも力が強かったり地位が高い人が先で、弱く力のない人は押しのけられる」と指摘。法王の低姿勢はまだ髄所に権威主義的風潮が残る韓国社会に対する「無言の忠告」と受け止める向きもある。

 法王は今回、いまだ信仰の自由がない中国や北朝鮮との対話にも意欲を示したが、中国政府が法王訪韓行事に合わせて韓国に来る予定だった自国信徒たちの出国を認めないという“事件”が起き、これをめぐって法王訪韓で設置されたソウルのプレスセンターでも記者から質問が出た。宗教不毛国・中国の実態が世界に発信された期間でもあった。