韓国内乱陰謀事件で宗教指導者が「善処」の嘆願書
枢機卿ら判決前に圧力?
北朝鮮の理念・体制に追従し、内乱陰謀を企てた罪で一審有罪を言い渡された韓国極左政党・統合進歩党の李石基議員の事件で、韓国の主要な宗教指導者らが最近、裁判所に「善処」の嘆願書を出していたことが明らかになった。控訴審判決直前であるため圧力説が飛び出すなど波紋を広げている。(ソウル・上田勇実)
政教“不分離”、波紋広がる
嘆願書を出したのはローマ・カトリック教会の廉洙政(ヨム・スジョン)枢機卿ら7人。廉枢機卿は今月初め、容疑者家族らと面会し、その場で嘆願書を依頼され、1週間後には直筆による嘆願書を裁判所に出したという。
廉枢機卿は嘆願書で「イエス様は罪を犯した者を7回でなく77回までも許しなさいとおっしゃった」などとして「許し」を強調、「法の原則に基づいて公正に裁判をしてくださるよう祈ると同時に、彼らが社会の一員として和解と統合、平和と愛を実践できるチャンスを与えてくださるよう願う」と訴えた。
また韓国仏教最大宗派、曹渓宗のトップである慈乗・総務院長は別途に嘆願書を出し、「韓国社会が愚かな葛藤で国力を使い果たすよりも、お互いの理解と包容が許される社会になっていくことを希望する」と記した。
いずれも宗教的寛容に基づき、李容疑者に対する「善処」を促す内容だが、保守派を中心に反発の声が上がっている。
保守系団体の大韓民国在郷軍人会は「宗教的次元の善処は反省と悔い改めをする者にのみ可能だが、李容疑者は今も社会主義革命を夢見ている」と指摘した。また保守系大手紙・朝鮮日報は社説で「宗教指導者たちが宗教の自由が抹殺された北朝鮮の体制を擁護する勢力に善処を嘆願した」と痛烈に批判している。
李容疑者は、昨年5月に北朝鮮の指令を受ける地下組織の会合で国家体制転覆に向けた武装蜂起の準備などに関する協議をしていたことが発覚し、内乱陰謀罪などで逮捕・起訴され、一審判決は懲役12年、資格停止10年の有罪を宣告。現在、控訴審中だ。
嘆願書は来月言い渡される控訴審判決を控えたタイミングだったため、判決に影響を与えようとする圧力だったのではないかという疑念が広がった。韓国社会では宗教指導者の社会的地位が高く、歴代大統領たちも在任中に時局判断の参考にする目的で、青瓦台(大統領府)に招くことを通例のようにしてきた。このため、その「お言葉」は軽々しく無視できないのだ。
韓国宗教界は近年、左派による反政府運動に加担する動きをしばしば見せてきた。前述の曹渓宗は2008年に起きた李明博政権退陣運動を率いたデモのリーダーたちを匿(かくま)ったことがあり、昨年は地方のカトリック教会で北朝鮮の武力攻撃を擁護したり、大統領下野を主張するミサが行われ、問題になったこともあった。宗教指導者がドロドロした現実の政治に足を突っ込む、いわば政教“不分離”が目立っている。
来月半ばにはローマ法王の公式訪問を控えている韓国。日程にはソウル明洞聖堂での「平和と和解のためのミサ」もあるが、今回、枢機卿が訴えた“韓国式和解”を聞いたらローマ法王もさぞビックリするのでは。