中国は北より南を重視? あす習主席訪韓、金第1書記を頭越し

 中国の習近平国家主席が3日から4日の日程で韓国を国賓訪問する。北朝鮮の核開発や日本の「歴史認識」、経済協力などをめぐり関係強化を再確認するのが狙いとみられるが、何よりも北朝鮮の最高指導者・金正恩第1書記と会談をしないまま「頭越し訪韓」することに大きな関心が寄せられている。(ソウル・上田勇実)

“対日共闘”また演出か

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昨年6月訪中し、習近平・中国国家主席(中央)と会談した韓国の朴槿恵大統領(左)。右は習主席の夫人、彭麗媛氏(韓国大統領府提供)

 韓国主要紙・東亜日報は今回の習主席訪韓を「北朝鮮を含む北東アジアの力学関係に大きな影響を及ぼす外交行事」(社説)と位置付けた。中国国家主席が北朝鮮よりも韓国を先に訪問するのは初めてのことだからだ。

 共産主義を信奉する者同士、長く血盟関係と呼ばれてきた中朝両国にとって、北東アジアにおける日米韓3カ国の絆こそ「共通の敵」だったが、冷戦の終結や中国の改革・開放路線、北朝鮮の核問題、朴槿恵大統領の親中政策などにより、中国と北朝鮮の関係にひびが入り始めている。こうした流れの中、習主席の訪韓は「北朝鮮に送る警告であり、国際社会に韓国を重視することを知らせるメッセージが込められている」(同紙)ようだ。

 習主席は昨年3月の国家主席就任後、同年5月には金第1書記の特使として訪中した崔竜海・軍総政治局長(当時)との会談には応じたが、肝心の金第1書記との会談は実現していない。「中国を喜ばす核放棄宣言級のお土産なしに30歳そこそこの若造(金第1書記)との会談には応じにくい」(韓国情報筋)のが本音だろう。

 しかも昨年末、金第1書記は北朝鮮きっての中国通で改革・開放に理解を示していたとされるナンバー2の張成沢・党行政部長を処刑し、中国が思い描く北朝鮮のソフト・ランディング構想が宙に浮いてしまった。その後も「核放棄は絶対にしない」と言い続ける北朝鮮は、中国の経済成長戦略にとって負担になっている。

 その意味で、今回の「頭越し訪韓」が中朝友好関係の見直しに向けた試金石になるとの見方が出ている。核問題一つとっても中韓共同声明で表面的には「非核化」で一致しても、中国側はこれまで「北朝鮮の非核化」とはせずに「韓半島の非核化」と北朝鮮を擁護するかのごとく、あえてぼかす表現にこだわってきた。共同声明の文句一つから「中国の本気度」を図ることもできる。

 中国としては今回の「頭越し訪韓」で、現在、東シナ海や南シナ海で繰り返し行われている「力による現状変更の試み」に猛反発する日米両国と韓国を離反させたい“下心”もありそうだ。「中国が伝統的な血盟関係を見直すのだから、韓国にも日米寄りを見直してもらいたい」として、安保上の対日包囲網を韓国と築こうというものだ。

 これに対し韓国は、安保問題で米国抜きはあり得ない半面、「歴史認識」では中国と再度“対日共闘”を演出する可能性が高い。河野談話検証や集団的自衛権行使容認などの動きは、中韓両国にとって到底受け入れられない「挑発行為」だ。

 4月の旅客船沈没事故への不手際な対応や首相候補の相次ぐ辞退など失態劇が続き、支持率が急落傾向にある朴政権としては、習主席訪韓を反転のきっかけにしたい考えもありそうだ。