韓国の最前線部隊でまた銃乱射

要注意兵、同僚5人死なす

 北朝鮮との軍事境界線に近い韓国北東部の陸軍師団内で銃乱射事件が起き、将兵5人が死亡、7人が負傷した。犯人は同師団に所属する兵長(22)で、軍生活に適用し切れない要注意兵の一人だったという。最前線で何が起きていたのだろうか。(ソウル・上田勇実、写真も)

少子化・服務短縮の影響も

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銃乱射事件が起きた現場から程近い場所にある東部前線の一つ、北朝鮮の第4南侵トンネル(2011年4月撮影)

 今月21日午後8時すぎ、江原道高城郡の軍事境界線に近い陸軍第22師団の鉄柵線GOP(警戒哨所)で、勤務中だった兵長が突然、同僚兵士に向かって手榴弾(しゅりゅうだん)を投げ、小銃を乱射する事件が起きた。現場にいた将兵たちは「北朝鮮が攻撃してきたのか、内部による犯行なのか、一瞬、見分けがつかず混乱した」と証言し、相当緊迫した状況だったことが分かる。

 事件を起こした兵長は、実弾数十発を所持したまま脱営し、翌日、現場から約10㌔離れた日本海に近い山林で軍と銃撃戦を繰り広げた。その後、そこから約3㌔南の山林にいるのが発見され、軍や家族が投降するよう呼び掛けたが、小銃で自殺を図り、病院に搬送された。

 韓国軍によると、この兵長は軍生活にうまく適応できなかったり、性格的に問題があるなどの理由で、自殺や暴行、銃器乱射などを引き起こす恐れがある「関心兵」と呼ばれる要注意兵だった。「関心兵」は、その度合いによってA級(特別管理対象)、B級(重点管理対象)、C級(基本管理対象)に分けられ、兵長の場合は昨年初めにA級に分類された後、同年末にB級に緩和されていたという。

 この師団では、ちょうど30年前にも同様の事件が発生し、15人が死亡している。近年でも2005年に軍事境界線に近い北部の京畿道漣川郡にある陸軍部隊で一等兵が手榴弾を投げ、銃を乱射するなどして8人が死亡し、2人が負傷。11年には西部前線の仁川市江華島で海兵隊所属の上等兵が銃乱射事件を起こし、4人が死亡している。皮肉にも、北朝鮮と対峙(たいじ)する上で最高の規律が求められる最前線で銃乱射事件が繰り返されている。

 かつては上官たちのいじめなどもっぱら陰湿な軍文化が問題視されてきたが、今回の事件では上述の「関心兵」の増加がクローズアップされている。事件のあった第22師団の場合、他の最前線部隊に比べ、警戒すべき範囲が広い上、険しい山岳地帯もあり、その分、兵士の負担が大きいとの指摘が挙がっている。にもかかわらず、全兵力の20%に当たる約1800人が「関心兵」で、そのうち300人がA級だとの統計もある。

 本来、管理対象B級以上に分類された兵士には最前線任務に当たらせない方針だったというが、少子化や兵役期間の短縮で人手不足となり、やむを得ず投入するようになった。問題兵士を北朝鮮との軍事境界線近くに立たせるという極めて危うい構造が浮き彫りになっている。

 「関心兵」の増加は、根本的には家庭環境の悪化が原因とみる向きもある。大手紙・東亜日報は社説で「両親の離婚などで急速に家庭崩壊が進み、その余波で社会に適応できない若者が数多く軍に入隊するようになった」と指摘している。