韓国の首相候補に「親日」騒動

 韓国でこのほど新たな首相に内定した文昌克氏(65)が、過去に親日的な発言をしたなどとして問題視され、窮地に立たされている。朴槿恵大統領は、韓国社会では非国民のそしりを免れない親日派のレッテルを張られまいと細心の注意を払ってきたが、自ら指名した首相候補が「親日」騒動に巻き込まれるという皮肉な結果を招いている。(ソウル・上田勇実)

韓国 “タブー発言”に反発広がる

朴政権支持率にも影響か

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13日、国務総理(首相)執務室があるソウルの政府庁舎別館に出勤し、記者団の質問を受ける文昌克氏=韓国紙セゲイルボ提供

 文氏は3年前に所属教会での説教で、日本による植民地統治について当時の親日派政治家の言葉を引用しながら「神様はなぜこの国を日本の植民地にしたのか。私たちは心の中でそう抗議することもできるでしょう。神様のみ心があったんだ。私たちに『李朝500年、無為に歳月を送ってきたので試練、苦難が必要』として与えてくださったもの」「怠惰で自立心に欠け、他人に面倒を掛けるというのがわが民族のDNA(遺伝子)に残っている。そういう怠惰をキリスト教精神が入ってきてなくそうとした」などと述べた。

 また今年4月の大学での講義では、いわゆる従軍慰安婦問題と関連し、「われわれは以前と異なり、先進国の隊列に加わったため、あえて日本から謝罪を受けるほど弱い国ではなくなった。反日感情にとらわれ過ぎているため、客観的な目で国際的な雰囲気を把握できないようだ」と語ったという。

 これらの発言は、一部マスコミを通じ暴露されたものだが、日本絡みの問題、しかも韓国人が最も敏感に反応する植民地時代や慰安婦問題を見方によっては正当化するような、韓国ではすこぶる“タブー”な内容に映ったため、大騒ぎになっている。

 文氏は韓国の保守系大手3紙の一つ、中央日報の元主筆などを歴任したマスコミ出身。青瓦台(大統領府)は首相内定の際、文氏を「冷徹な批判意識と合理的な代案で社会の誤った慣行を正す努力をしてきた」と評価していたが、どうやら親日的な発想の持ち主であることまでは事前につかんでいなかったようだ。

 文氏本人は当初、言わんとする趣旨をマスコミが曲解したにすぎないと言って、逆に法的に対抗すると示唆していたが、騒ぎがどんどん大きくなり、釈明や謝罪に追われている。世論調査機関リアルメーターの調べによると、文氏の今後の進退について「首相を辞退すべきだ」が65・6%に達し、「教会などで個人的に発言したものだから問題ない」という擁護論は21・9%にとどまった。

 マスコミや市民団体などは連日、文氏の「首相の資質」に疑問を投げ掛け、野党も、文氏がどんなに釈明・謝罪しても「植民・親日・売国史観のDNAは決して変わらない」などと攻勢を強めている。

 今後、文氏が首相に正式就任するには国会での人事聴聞会、表決という関門が待ち受けているが、苦戦は必至。与党内ですら文氏辞退を主張する議員たちもいる。

 今回の騒ぎで、朴大統領の支持率も約半年ぶりに50%の大台を割るなど、早くも政権運営への悪影響が出始めている。仮に文氏が首相になったとしても、「親日」首相との二人三脚は相当のリスクが伴う。だが、かと言って文氏を切り捨てるわけにもいかない。朴大統領は先月、旅客船沈没事故で辞任した首相の後任に元最高裁判事を指名したが、不透明な高額報酬が槍玉(やりだま)に挙がり、辞退したばかりだ。