韓国の沈没船オーナーが大逃亡劇

 4月に起きた韓国旅客船沈没事故の道義的、法的責任を問われている運航会社の事実上のオーナー、兪炳彦(ユビョンオン)氏に対し、捜査当局は身柄拘束に乗り出したが、兪氏はどこかに雲隠れし、いたちごっこが続いている。兪氏は自らが創設した新興宗教団体のメンバーに逃走を手助けされているとみられ、マスコミは連日、この大逃亡劇の様子を“中継”している。(ソウル・上田勇実)

懸賞金5千万円、逮捕寸前で逃す

某大使館は亡命打診され拒否

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先月21日、京畿道安城市の新興宗教団体本部への強制捜査で兪炳彦氏の身柄拘束に失敗し、本部から出てきた捜査当局の車両=韓国紙セゲイルボ提供

 修学旅行中の高校生が多数犠牲になった今回の事故では、当初、乗客の救助そっちのけで真っ先に逃げ出した船長・船員に批判が集中したが、犠牲者の数が増えるにつれ、救助活動に手間取った責任を朴槿恵政権に問う声が大きくなり、それとともに兪氏への非難も増幅していった。国民の本音は「ユ・ビョンオンこそ死刑にすべきだ」と言われるほど、怒りの矛先が兪氏に向かっている。

 当初、兪氏には、自身が経営していた企業グループの系列社から不透明に資金を流出させたなどとして横領や背任、脱税などの疑いが持たれていたが、捜査当局は事故に直結する刑事責任まで追及する構えだ。

 兪氏は事故を起こした旅客船を無理に増改築させ、老朽化を知りながら船の売却を遅らせるよう指示した。その結果、船体の傾きからの復元力が低下し、1年以上にわたり過積載を可能にさせたという。兪氏の指示と事故の因果関係が立証されれば、業務上過失致死罪が成立するとみられている。

 捜査当局は先月、兪氏とその長男の逮捕状を取り、兪氏が匿(かくま)われている可能性があった教団施設を強制捜査したが、居場所すら確認できず、変装時の姿まで含めた写真を公開し、二人を全国に指名手配した。情報提供者に支払う懸賞金は10倍に引き上げられ、兪氏については5億ウォン(約5000万円)という過去最高額が提示された。

 ところが、指名手配から2週間、兪氏は密(ひそ)かにソウルや地方を転々としながら捜査の追っ手を振り切っている。一時、身を隠していたとみられる南部の順天市では、逮捕寸前で逃れたことが分かるなど、常に追っ手より一歩先んじ、ハリウッド映画さながらの逃亡劇を見せている。

 兪氏の逃亡には教団メンバーが深く関わっているとみられている。京畿道安城市にある教団本部が逃亡のルートなどを企画立案するコントロールタワーの役割をし、全国に10万人ともいわれる信者が要所要所で逃亡を手助け。上述した順天では、踏み込もうとした警察に対し信者の夫婦が抵抗し、兪氏が逃げるための時間稼ぎをしたのではないかとする見方も出ている。

 捜査当局は、兪氏が「海外高飛び」へ密航する恐れもあるとみて、厳重な取り締まりをしているが、兪氏自身も国内逃走に限界があると判断したのか、韓国所在の某大使館に政治亡命を打診していたことが明らかになった。もちろん打診は拒否されたというが。

 兪氏一家について大方の世論は、事故の遠因を作り出しながら私利私欲のため逃げ続ける「破廉恥犯」(仁川地検)とみており、大逃亡劇の行方を注視している。韓国政府は、事故被害者への補償や救助作業の過程で発生した諸経費の支払いを、最終的に兪氏一家に求める考えだ。