韓国統一地方選、広がる反政府・与党感情

旅客船沈没、野党に追い風

 韓国で来月4日に実施される統一地方選は、朴槿恵政権下で初めて行われる全国規模の選挙だが、今回は特に南西部沖の旅客船沈没事故の影響が大きく、事故の対応が失敗したと批判される政府・与党への風当たりが強い半面、野党には追い風になっている。(ソウル・上田勇実)

保守・革新の牙城で“異変”も

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今月19日、ソウル市長選候補として初の討論会に臨んだ与党セヌリ党の鄭夢準氏(左)と現職で野党・新政治民主連合の朴元淳氏=国紙セゲイルボ提供

 1週間後に迫った統一地方選では、ソウルをはじめ17の主要都市・道や各基礎自治体のトップなどを選ぶが、旅客船「セウォル号」沈没事故の余波が今なお続く中で、各候補とも、まずは「安全対策」をアピールせざるを得ない状況だ。

 有権者が最も関心を寄せるはずの地域経済活性化や福祉増進などの政策・公約が争点化する気配はあまりなく、実際は事故でショックを受けた民心をどうつかむかの争いとなっている。その意味で事故は政府・与党に逆風、野党には追い風だ。

 人口約1000万人を抱える首都ソウルの市長選は「大統領への登竜門」とも言われ、今回の地方選でも高い関心を集めているが、ここでも事故後の言動が明暗を分ける可能性が出てきた。

 与党セヌリ党は、現職で再選を狙う左派系野党・新政治民主連合公認の朴元淳市長の対抗馬に、財閥・現代グループの創始者の六男でFIFA(国際サッカー連盟)で長く要職を務めた鄭夢準・元ハンナラ党(現、セヌリ党)党首を擁立したが、沈没事故をめぐる息子の「問題発言」で支持率が急落している。

 「問題発言」とは、息子が自身のフェイスブックに「大統領が(現場に)行って捜索に最善を尽くすと言っても声を荒らげ悪口を言い、首相には水の洗礼までした。国民情緒自体が極めて未開なのに大統領だけが神のような存在になって国民全てのニーズに応えるのを期待するなんて話にならない。国民が集まって国家になる。国民が未開だから国家も未開だ」などと書き込んだもの。

 この発言を受け、鄭氏は公の場で涙ながらに謝罪したが、当初、僅差で朴氏と大接戦を演じていた鄭氏の支持率は、一挙に10%ポイント以上の差をつけられてしまった。

 そもそも今回の地方選では、野党陣営の“失策”で与党有利との見方も出ていた。既存政治と一線を画してきた安哲秀氏が民主党と戦略的に統合したものの、支持率が伸び悩んだためだ。しかし、そこに沈没事故が発生、形勢はガラリと変わった。

 今回の地方選で一つ話題になっているのは、保守の牙城・釜山市と革新の牙城・光州市で“異変”が起きていることだ。韓国は地域主義が根強く、保守系大統領を輩出し続けてきた南東部の釜山・慶尚道では保守系政治家に対する支持は圧倒的であり、逆に保守系政権下で開発に取り残されてきたという恨みを抱く南西部の光州・全羅道では革新系政治家に対する支持が絶対的だった。

 ところが今回、釜山市長選で保守系候補の苦戦が、光州市長選でも野党陣営の分裂で新政治民主連合の公認候補が無所属候補に敗れるのではないかとする予想が伝えられている。今後、総選挙や大統領選にも影響を及ぼす“異変”になるかもしれない。

 一方、地方選では各自治体の教育行政トップを任される教育監も選出される。教科書記述の左傾化とその是正を促す動きが浮上する中、こちらの結果も注目されそうだ。