北朝鮮がロケット弾大量発射なぜ

米韓の上陸作戦を意識か

 北朝鮮がここ1カ月の間に計80発以上のロケット弾や短距離ミサイルを発射し、その意図や背景に関心が集まっている。例年実施されている米韓合同軍事演習への対抗措置とする見方が支配的だが、特に今年の演習には北朝鮮への上陸作戦を想定した過去最大規模の訓練も含まれ、最高指導者・金正恩第1書記としても穏便ではいられないところだろう。(ソウル・上田勇実)

想定の元山で防衛訓練も

800

9日、平壌の金日成政治大学で最高人民会議(国会)第13期代議員選挙の投票を終え、代議員候補者と話す金正恩第1書記(左から2人目)(朝鮮通信= 時事)

 北朝鮮は先月21日、「KN09」と称する300㍉新型多連装ロケットを4発発射したのを皮切りに今月23日までの約1カ月間、断続的にロケット弾やミサイルを発射し続けている。先週から今週にかけては東海岸沿いの元山市に近い葛麻半島から「フロッグ」と呼ばれる射程60㌔~70㌔の短距離ロケット弾を日本海に向け約70発も発射した。北朝鮮がこれだけ集中的に大量のロケット弾を発射したことが確認されるのは異例だ。

 「フロッグ」は1950年代に旧ソ連が開発し、70年代に北朝鮮に導入された旧式武器であるため、ロケット弾大量発射は「“賞味期限”が切れた在庫弾の処理」(情報筋)という側面もありそうだが、例年実施されている米韓合同軍事演習に合わせ、両国を心理的に圧迫する対抗措置だとする見方が多い。先月24日から韓半島有事を想定した指揮系統訓練「キー・リゾルブ」が今月6日まで行われ、これと重複して野外機動訓練「フォール・イーグル」が同じく先月24日に始まり、来月18日まで続く。

 だが、それだけではなさそうだ。今年は米兵1万人を含む過去最大規模の北朝鮮上陸訓練「双竜訓練」があすから始まる。在韓米軍司令部によると、「双竜」は「災難救助から遠征作戦に至る多様な訓練」で、参加する米・韓・豪の「各国の海兵隊・海軍の上陸能力を練磨する」ことが目的。だが、実際には「(北朝鮮南東部の)元山への上陸を想定し、同市と平壌市を結ぶライン以南の地域の占領が目標」(政府系シンクタンク関係者)のようだ。

 「双竜」の主力部隊である米第3海兵遠征軍は「作戦計画5027」に沿って半島有事に真っ先に展開する増員戦力とされる。また「双竜」は韓国南東部の浦項市一帯で行われるが、地図で見ると浦項市と元山市はその周辺地形が似ているという点で興味深い。

 浦項市は日本海に北東方向にそそり立つようにして伸びる長●(=髪の友を耆に)半島で遮られた迎日湾に接するが、元山市も日本海に北東方向に伸びる葛麻半島などに囲まれる永興湾に接する。在韓米軍司令部は否定しているが、浦項での演習は「元山上陸」の予行演習には地理的条件でピッタリの場所といえる。

 北朝鮮はこの「双竜」に対し「不義の先制攻撃であり、北進を達成するために発狂している」(党機関紙・労働新聞)などと強く反発。韓国メディアによれば、金第1書記も大量発射直前の今月15日、セスナ機で元山を訪問したことが確認されたといい、2日後の17日には金第1書記が直接仕切る形で党中央軍事委拡大会議が開かれたことが報じられた。“最高司令官同志”自ら陣頭指揮を執ったことがうかがえる。

 北朝鮮人民武力部偵察局出身の崔主活・元国家安保戦略研究所責任研究委員は、今回のロケット弾大量発射について「元山では敵(米韓)の侵攻に備え、海上・陸上など段階的にこれを防ぐシナリオに基づく軍事訓練がなされていた。ロケット弾発射はその一環の可能性がある」と述べ、デモや心理的圧迫を超え、実戦レベルの対抗措置に重きを置いた。