“韓国通”道上氏の意見を聞いた「中央」


「韓国は日本をよく知らない」、関係改善へアドバイス

 「ソウル大の老教授が、『私たちは日本をすでによく知っているから、研究する必要もないというが、それは大きな錯覚だ』として、『韓国は実際に日本をよく知らない。私たちが知っているという日本は真の日本と差がある。学生たちは日本を知らないと認めて、熱心に勉強しなさい』という話をされた」

 これは日中韓協力事務局(韓国ソウル所在)の事務総長を務めた道上尚史(みちがみひさし)氏が韓国の総合月刊誌月刊中央(10月号)に語ったエピソードである。「日本外務省を代表する“韓国通”」と紹介される道上氏は2019年9月から2年間、その任にあった。任期が終わって、すぐに同誌のナ・グォンイル編集長がインタビューしたものだ。

 道上氏の在任期間はまさに日韓関係が「最悪」の状態だった。韓国では最近になって、そろそろこの状況を改善しなければならない、という論調が保守系メディアを中心に出てきている。月刊中央を出す中央日報はこれまでも元駐日大使など“日本通”を登場させては、関係改善策を聞いて、韓国世論に影響を与えようとしてきた。

 まず同誌は、道上氏を「韓国の社会、文化事情に明るく、韓国語駆使能力に優れ、韓国内でも知名度が高い」と紹介する。つまり「韓国と韓国人に一定の理解ある日本人」だというわけで、語る言葉には聞くべき内容があることを念押ししたものだろう。

 それで同氏はかなり厳しいことも言っている。例えば「韓国人は日本を知らない」から始まって、「相手国を十分に研究してこそ外交が可能で、それは屈辱ではない」などと“諭して”いる。

 「屈辱」はキーワードである。外交は時に国の命運を左右する。実利、合理で行うべきものだが、往々にして韓国は「自尊心」を前に出して展開しがちだ。その際、国際法や慣習は吹き飛び、感情的に反応してしまう。

 日本の提案を受け入れることが、合理的には正しくとも、自尊心からすれば「屈辱」だとして、むやみに強硬な対応をすることもある。これを道上氏は諫(いさ)めたのだ。相手を怒らせる言い方だが、韓国通が韓国語で言うと、少し違うのだろう。

 現在、韓国はしきりに「話し合い」を求めてきているが、日本政府は「まず韓国側が答えを出すのが先」と取り付く島もない。頑(かたく)なとも映る日本の態度だが、韓国に足りないのは、なぜ日本がそういう態度なのか、という推察だ。

 道上氏は、「まず相手方がなぜそのように主張するのか、国内事情をよくリサーチしなければならない」とし、さらに「さまざまなオプションのうちで国益上、最善の策を選ぶが、国内世論の説得も重要だ」とアドバイスする。

 ただ問題なのは現政権に「対日関係を良くしようとする努力が見えない」こと。日本の問いに応答もせずに、ただ対話しようというのは「努力」とは言えない。それでいて、「日本関連ニュース一つ一つに即座に反応して反発することが目に付く」。要するに、これでは落ち着いて話し合いの席に座る気も起きないと言っているのだ。

 韓国が「日本を知らない」典型的な事例は、「日本の“嫌韓”を“保守勢力の政治活動”とする見方」だ。実際は「平均的な日本人たちの韓国に対する心が離れた」のであり、「韓国をリスペクトした人であるほど(韓国に対する)失望が深い」のである。しかもこれは「一時的な現象でなく、構造変化とみるべきだ」と指摘している。韓国はこのことになかなか気付かない。

 中国の事例を挙げて、「第2次大戦後の日本に対する理解が足りず偏見がある」と認め、「日本を知るために着実に努力している」と紹介する。こうした道上氏の言葉を読者はどう読んだのだろうか。

 道上氏は言う。「よく日本人は韓国の保守を好むというが、この40年間で最も評価の高い指導者は(左派と言われる)金大中(キムデジュン)元大統領でした」。これに驚く韓国人は多いだろう。予想外だからだ。つまり、それほど彼らは日本を知らないということだ。今は地道に韓国通に発信してもらうしかない。

編集委員 岩崎 哲