政権交代へ大胆変革、韓国保守系野党

30代新党首、支持率上昇
反既得権の若者取り込み

 韓国の保守系最大野党「国民の力」は先日の党大会で、新しい党首に36歳の李俊錫氏を選出、大胆な変革に乗り出した。世論の反応は上々で、来年3月の大統領選で政権交代を目指す同党には追い風となりそうだ。
(ソウル・上田勇実)

前検事総長も合流か

 李氏の新党首選出は韓国社会に同党の斬新な変化を印象付けている。

李俊錫氏(韓国紙セゲイルボ提供)

李俊錫氏(韓国紙セゲイルボ提供

 李氏は米ハーバード大卒後、ベンチャー企業を起こし、朴槿恵前大統領によって同党の前身、セヌリ党の革新委員長に抜擢(ばってき)され、政治の世界に入った。国会議員選挙には3回出馬しいずれも落選したが、インターネット交流サイト(SNS)による発信やテレビのトーク番組出演などで知名度を上げた。

 30代という若さで主要政党の党首に選ばれるのは韓国憲政史上初めてだという。しかも国会議員の経験もない。だが、それがむしろ既存政治への失望感を抱いていた党員や世論に支持され、党大会では対抗馬の有力候補を抑え、党首に選ばれたとみられている。

 ある保守派の論客は「ひとまず保守が変化を受け入れたということ。従来通りでは選挙で惨敗することを悟り、李氏を通じてその熱望が表出したのではないか」と述べた。

 2017年に文政権が発足した時、保守派は壊滅的な打撃を被った。朴前大統領が国政介入事件で弾劾・罷免に追い込まれたのを境に「積弊」のレッテルを貼られ、発言力を失った。文氏による独善的な内政・外交が続いても、それが決定的な敵失になることはなく、保守は各種選挙で苦汁を舐(な)めた。

 その後、政権絡みの不動産政策をめぐる失態などが庶民の反感を買い、政権・与党の支持率が下落。4月のソウル・釜山市長選挙で政権審判論が吹き、与党が惨敗して潮目が変わった。

 特にこの選挙では無党派層が多い20代、30代の若者の多くが野党候補を支持し、若者の政権離れが浮き彫りになっていた。今回、李氏が党首に選ばれたのは「既得権政治や年功序列中心の社会・経済体制に強い拒否感を抱いてきた20代、30代」(韓国メディア)の支持を集めたことが大きい。

 党大会後に実施された各種世論調査では同党の支持率が軒並み上昇。「李俊錫効果」とみられている。

 また李氏の党首選出を機に同党では入党ラッシュが起きている。ネットによる入党申し込みが殺到してサーバーが一時ダウン。保守政治「不毛の地」と呼ばれ続ける南西部の光州市でも20代、30代の入党が急増中だという。

 李氏は党首選出後のあいさつで「今年と来年は(国会)多数による独裁、牽制(けんせい)を受けない偽善で民主主義を野蛮に変質させた人々を審判した年と記憶されるだろう」と述べ、政権交代への意欲を示した。

 憲法上、40歳未満は大統領選に出馬できないため、同党は李氏以外の候補を擁立しなければならない。白羽の矢を立てているのが、文政権の不正疑惑に捜査のメスを入れてきた尹錫悦・前検事総長だ。

 有力な次期大統領候補である尹氏は、まだ大統領選出馬を明言していないが、時期を見計らって出馬宣言をするとの見方が有力だ。仮に尹氏が出馬を視野に同党と合流した場合、同党は「李・尹」体制で政権交代へ大きく弾みを付けることになる。

 今後、李氏が直面する課題は党内結束だ。同党は朴前大統領の弾劾をめぐりいまだに賛否両論に分かれている。李氏自身は朴氏に抜擢され、「朴槿恵キッズ」と呼ばれることもあったが、最近は「弾劾は正しかった」と述べ、朴氏恩赦論を持ち出すこともきっぱり否定した。

 「朴氏に近いグループをどう説得し、党を一つにまとめられるか本当の政治手腕が試される」(韓国政府系シンクタンク関係者)ことになりそうだ。