与野党が共に韓日関係を熟考せよ


韓国紙セゲイルボ

政府は自尊心の対決ばかり

 韓日両国には強制徴用(元徴用工問題)解決の最後の時間が与えられた。4日から日本製鉄(旧新日鉄住金)に対する差し押さえ命令の公示送達効力が発生したためだ。

文喜相・国会議長

元徴用工問題で和解案を示した韓国の文喜相・国会議長(当時)=2018年12月、ソウル(時事)

 これで直ちに韓日関係が破局するかのように多くのメディアは報じているが、株式差し押さえ命令が確定しても、現金化するには時間がかかる見通しだ。その間に、問題解決策を用意すれば最悪の韓日関係は避けられるはずだ。

 今まで強制徴用問題をめぐって韓日両政府は互いに責任を相手側に転嫁していた。韓日両国は国内政治を意識して解決策の真剣な議論はせずに、政治的に利用してきたのが現実だ。

 韓国の提案を受け入れない安倍首相の誠意のない態度にも問題があるが、日本に韓国の正当性を貫徹できない文在寅政府にも責任がある。その過程で韓国が憂慮すべきことは、安倍政府だけを敵に回すのでなく、日本の世論まで背を向けさせてしまったことだ。韓日対立は自尊心の対決に発展し、結局は韓日両国の利益、戦略まで失踪した状態になった。

 韓日関係を破局に追いやる状況が迫っているのに、両国は感情的になり過ぎて互いに共倒れになるという危機意識にさえ鈍感だ。韓日政府は対立を管理しなければならないという認識まで消えている。「ボールは相手方にある」として責任を回避しても特に政治的な負担を感じないためだ。

 最近、安倍政権はコロナ対応に失敗し、来年の五輪開催も断言できなくなった。日本の国内政治の困難により安倍首相は韓日関係の改善は眼中にもない。一方、文在寅政府は4月の総選挙で勝利して政局運営に余裕があるが、北朝鮮問題、不動産などの悪材料によって韓日関係の改善は優先順位から押し出されている。

 文在寅政府は、「司法府の判断尊重、被害者の権利実現、韓日関係などを考慮しながら多様な合理的解決案を議論することに開かれた立場」だというが、本当に韓日関係改善の意思があるのか疑問を感じるほどだ。

 韓日両国政府がこういう状況なので、かすかな期待をかけられる最後の綱は国会だ。昨年、解決策として文喜相議長案が出てきた経緯をみても、国会の切迫感が感じられる。文喜相案に対して日本政界は反対せず、解決の糸口を与えたことは事実だ。

 しかし、韓国の先の国会では文喜相案はろくに議論すらされず死蔵されてしまった。今国会では野党が第2の文喜相案を提案したが、与党は見向きもしない。これは韓日関係を戦略的に考えられずにいるという傍証だ。

 外交問題では政派の利益を優先すべきでない。国益と長期的な観点を持てば、強制徴用問題の解決策は与野党が一緒に発議することができる。文在寅政府も国会の議論を傍観していてはならない。国会が正しい合意を導き出すためにも文在寅政府が乗り出して被害者と弁護団を説得する必要がある。韓日関係の特殊性による政治的な負担を与野党が共に負う時、強制徴用問題の解決策は現実味を持ちうる。

(陳昌洙(チンチャンス)世宗研究所首席研究委員、8月5日付)

※記事は本紙の編集方針とは別であり、韓国の論調として紹介するものです。

ポイント解説

小手先の措置では問題の根残る

 日本通として知られる陳昌洙氏は日韓理解が深いゆえに韓国で「土着倭寇」のそしりを受けている。わずかでも日本に理解を示せば、SNSで“公開処刑”に遭う。このコラムも日本人が読めば不満だろうが、韓国の日本専門家が書けるぎりぎりの論説だ。
 元徴用工問題は日韓ともに「取り付く島もない」状態だ。韓国政府は権力の恣意(しい)性が強いくせに「司法不介入」の建前を譲らず、むしろ国民情緒に投げて、様子を見ている。日本政府は請求権協定で処理済みとの大前提を崩していない。

 陳氏が指摘する「文喜相案」は政治的落としどころとしては妥当だろうが、二つの理由で難しい。まず韓国側の事情。徴用工訴訟は「未払い賃金」の話などではない。原告は自ら日本に来た応募工であり、当時賃金をもらい、戦後も補償を受けた人たちだ。何を要求しているかと言えば、「そもそも不法の植民支配下で、日本によって行われた全てのこと」に対する「賠償」を要求しているのである。だから、日韓政府と関連企業で金を出し合うという技術的、いわば小手先の措置で済まされる話ではない。

 一方、日本は日韓併合条約が「不法」だとするような裁判を容認することはできない。併合条約は合法的に結ばれ、国際社会が認めたものだ。韓国側が根拠にしている「臨時政府」は世界の誰からも承認されず、だからサンフランシスコ条約でも韓国は排除された。「戦勝国」では到底あり得なかった。

 陳氏の論考は韓国左派政権の真の目的に目をつぶって、当面の破綻を回避することに焦点を当てるものだが、これでは問題の根はずっと残ることになる。最悪の事態を避けたい気持ちは分かるが…。

(岩崎 哲)