日本に報復、中国には寛容

 新型コロナウイルス対策の一環で日本が中国と韓国からの入国制限に踏み切ったことに韓国政府が「底意があるのではないか」として反発、対抗措置として9日から邦人のビザ免除と発行済みビザの効力を停止した。だが、韓国人を隔離した中国をはじめ韓国人の入国制限をしている世界100カ国以上の国には何の対抗措置も講じていない。日本に報復する一方で、中国には寛容な韓国のダブル・スタンダードが浮き彫りになっている。
(ソウル・上田勇実)

韓国政府の新型肺炎めぐる入国制限
二重基準は小中華思想ゆえ?

 今回の韓国政府の対抗措置は驚くほど迅速かつ果敢に行われた点で際立つ。遅すぎたと批判が上がるほどの日本側の措置に「底意」などあろうはずもないが、韓国は防疫以外の「底意」があると言い掛かりを付けて対抗措置を正当化した。しかも日本側の入国制限措置に後れを取るまいとばかりに、その実施日時にピタリと合わせたあたりはまるで子供のケンカだ。

康京和外相(右)と冨田浩司駐韓国大使

6日、ソウルの韓国外務省で、康京和外相(右)と会う冨田浩司駐韓国大使(AFP時事)

 康京和外相は現地の冨田浩司大使を呼んで厳重抗議したが、自国防疫体制の自画自賛と日本の「不当性」を訴えることに終始した。発生源である中国と感染者が世界で2番目に多い韓国への措置は防疫上当然のことだが、康外相は「優秀な検診能力と透明かつ強力な防疫システムで拡散遮断に成果を収めつつある」韓国に対し「極めて不適切」であり「非友好的で非科学的」と強弁している。

 韓国側は日本が事前通告してこなかったことにも不満を表した。習近平国家主席の訪日と絡み事前協議がなされた兆候がある中国とは違い、なぜ韓国には知らせなかったのかというわけだ。だが、これも就任以来の反日路線で一方的に日本との関係を悪化させ、両国政府間の疎通を委縮させた文在寅政権が何食わぬ顔で言う話ではなかろう。

 「底意」があるとすればむしろ韓国側にこそあった可能性がある。来月に総選挙を控え、野党の追い上げに遭う与党を援護射撃するため文政権が反日カードを切ることは十分考えられる。昨年、与党シンクタンクの民主研究院が「反日政策は総選挙で与党に有利」と分析した報告書を作成し、物議を醸したこともある。

 一方、韓国政府は日本への態度とは対照的に中国には拍子抜けするほど穏便。「中国人の痛みはわれわれの痛み」(文大統領)だというから対抗措置が出てくるはずもない。この点について李明博政権で青瓦台外交安保首席を務めた千英宇氏は自身のYoutubeチャンネルで次のように指摘している。

 「青瓦台を牛耳る主思派(主体思想派の略、チュサパ)の屈従的な親中主義は彼らが中国を文明の中心と考え、自らを小中華と自称した朝鮮王朝時代の衛正斥邪(理念偏重の攘夷思想)のDNAを受け継いでいるから。野蛮な日本をどんなに叩いても自分たちの怒りは収まらないが、中国の機嫌を損ねたら死ぬほどの罪を犯した気持ちになる二重の態度はここから出てくる」

 文政権の中国屈従はこれまでさまざまなところに表れてきた。

 政権が発足した2017年、文大統領の最側近である盧英敏氏が駐中大使に赴任する際、現地で芳名録に「万折必東」(黄河の水が一万回曲がっても東に流れるの意)と記帳して問題になった。これは豊臣秀吉の朝鮮出兵で九死に一生を得た朝鮮が援軍を出してくれた明の皇帝へ感謝の意を表した時の言葉で、盧氏の記帳は中国に属国としての忠誠を誓ったものではないかとの疑いを広げた。

 また同年、韓国は中国から北朝鮮弾道ミサイルを迎撃する高高度防衛ミサイル(THAAD)をめぐりいわゆる「3不合意」を取り付けさせられた。これは①韓国にTHAADを追加配備させない②米国のミサイル防衛体系に加わらない③日米韓軍事同盟に参加しない、という軍事主権放棄も同然の中国に対する屈辱的合意だ。

 青瓦台は否定するが、新型コロナウイルスへの対応をめぐり文政権の親中反日が再び表面化したのは明らか。韓国保守派からは国内経済への打撃や外交安保の危機を叫ぶ声が上がっているが、文政権がその是正に応じる気配は見られない。