移民・難民殺到で揺れる欧州
衝撃と不安続く“人の波”
オーストリア東部のブルゲンランド州で8月27日、高速道路(A4)の路肩に駐車していた小型冷凍トラックの中から71人の遺体(子供4人、女性8人、男性59人)が発見された。このニュースが流れると、オーストリアばかりか欧州全土に大きな衝撃が走った。不法移民斡旋(あっせん)業者対策と北アフリカ・中東から押し寄せる移民・難民の受け入れに頭を痛める欧州の現状を報告する。(ウィーン・小川 敏)
斡旋業者の取り締まり強化
独・オーストリアは受け入れ表明
国の政治をつかさどる指導者たちがその政策に本腰になるためには、やはり大きな代償を払わざるを得ないのだろうか。
オーストリア東部のブルゲンランド州の高速道路上で発見された71人の遺体は、見つかった旅券などからシリア人、イラク人、そしてアフガニスタン人の難民だったことが判明した。
シリアやイラクの移民・難民が全員、車内で遺体として自国で発見されたというニュースはオーストリア国民に大きな衝撃を与えた。国営放送やプリント・メディアは連日、移民対策や移民斡旋業者問題に関する特集番組を流している。
イタリア最南端の島ランペドゥーザ島沖で2013年10月3日、難民545人がボートに乗り、波の荒い秋の海をリビアのミスラタ海岸から約140㌔先のランぺドゥーザ島を目指したが、途中で乗った船が火災を起こし沈没、360人が犠牲となった時、マルタのジョセフ・ムスカット首相は「地中海が墓場となった」と嘆いたが、オーストリア高級紙プレッセは8月28日付社説で「わが国の高速道路上で多くの移民の遺体が発見された。高速道路が墓場となった」と書いた。
ミクルライトナー内相は今回の出来事を深刻に受け止め、不法移民斡旋業者の取り締まりを強化する5点計画の早急な実施を表明している。具体的には①ハンガリーからの国際列車の徹底的な監視(ハンガリー領土内で)②国境線のコントロール強化③連邦犯罪局内の不法移民斡旋業者担当官の増強④不法移民斡旋業者への刑罰強化⑤移民斡旋業犯罪を専門とする検察官の設置―の5点だ。
オーストリア連邦犯罪局(BK)の犯罪統計によると、同国で今年に入ってこれまで起訴された不法移民斡旋業者数は457人だ。今年はまだ4カ月余りを残した段階で昨年1年間の511人に迫っている。斡旋業者の国別の内訳は、昨年はハンガリー人が64人でトップ、それを追ってセルビア人56人、シリア人34人、コソボ人34人、ルーマニア人32人、ドイツ人32人だ。
今年7月末までに欧州に入った移民・難民は約34万人で前年同期比の3倍増だ。移民ルートとして海路(地中海)と陸路(バルカン・ルート)の2通りがあるが、北アフリカ・中東地域からボートや小型船でイタリア最南端の島ランペドゥーザ島沖に殺到している一方、ギリシャのレスボス島など離島にも難民が押し寄せている。ここにきて、トルコ経由、バルカン・ルート経由で欧州入りをする移民が増えてきている。
それに対し、難民を受け入れる側の欧州では移民対策で足並みがそろっていない。ダブリン条約では、「難民が初めて土を踏んだ欧州の条約加盟国が責任をもって難民審査を実施する」となっているが、実際は同条約は加盟国によって無視されている。シェンゲン協定の域外国境線に位置するイタリア、ギリシャ、ハンガリーでは移民や難民の登録が実施されず、他の欧州諸国に彼らを送り出す一方、ハンガリーではセルビア経由から殺到する移民・難民を阻止するために175㌔にわたる対セルビア国境線沿いに有刺鉄線を設置する一方、高さ4㍍のフェンスを構築中だ。
プレッセ紙は9月2日の社説の中で、「28カ国の加盟国、5億人の人口を有する欧州連合(EU)が紛争地から逃げてきた難民を収容し、支援するためにオーガナイズできないとすれば、EUの独自外交・安保政策などは考えられないし、世界の政治に大きな役割を果たすなどは夢のまた夢だ」と指摘しているほどだ。
移民・難民の主要目的国のドイツとオーストリアは5日未明、ハンガリーで足止めされてきた数百人の移民・難民の受け入れを表明した。その結果、ブタペスト東駅で集まった移民・難民が両国に向かうことで、同駅周辺の混乱は解決する可能性は出てきたが、問題は、今年80万人の移民、難民が殺到すると予想されるドイツ、10月11日にウィーン市議会選を控えるオーストリアでは、決して移民・難民歓迎一色ではないことだ。
ドイツのナーレス労働社会相は「移民によって労働力不足が解決される」と歓迎しているが、同国では移民・難民が収容されているハウスや収容所が何者かに放火されるなどの不祥事が頻繁に発生しているのだ。オーストリアでは移民の殺到を批判する極右派政党「自由党」がウィーン市議会選で第1党に躍り出る勢いを見せているなど、両国の政情は移民・難民の殺到で大きく揺れ動いているのだ。











