予想覆した英保守党の総選挙大勝

EU離脱に現実味?

 英国で7日に行われた総選挙は、与党・保守党の大勝で終わった。保守党のキャメロン英首相は、欧州連合(EU)からの離脱の是非を問う国民投票を約束しており、総選挙の結果は今後EU全体に大きな影響を与えそうだ。欧州にのしかかる移民と雇用問題は、今回の英選挙での主要テーマでもあったが、大陸欧州は英国の動きを注視している。(パリ・安部雅信)

展開読めない住民投票

700 7日投開票が行われた英総選挙は8日、当初の予想に反し、与党・保守党が解散時より20議席以上議席を伸ばし、単独過半数を占める326議席を獲得して終わった。一方、大敗を喫した労働党のミリバンド党首をはじめ野党3党の党首は8日、党首辞任を表明した。

 英公共放送のBBCや、タイムズなどの主要日刊紙は、投票前の世論調査などから保守党と労働党は拮抗(きっこう)していると伝えていた。さらには反EU、反移民を掲げた英独立党(UKIP)が議席を伸ばすのではとの予想もあった。しかし保守党が大勝し、UKIPのファラージ党首は落選し、辞意を表明するなど、結果は予想を覆すものだった。

 これにより、保守党が公約として掲げるEU離脱の是非を問う国民投票の実施(2017年に予定)が現実味を帯び、EU諸国にとっては新たな懸念材料が浮上した形だ。英国国内では、EU残留を支持する財界が国民投票の前倒しをこれまで主張してきた。残留支持は労働党と保守党の親EU派、それに今回解散時の9倍超の56議席を獲得した地域政党スコットランド民族党(SNP)だが、国民の意見は不透明だ。

 英国の複数のメディアは選挙結果を受け、「英国の政治状況は中道化の加速とアイデンティティー政治に変化している」と指摘している。その代表格はSNPだが、地域や国民一人一人が要求する声が、既成政党の政治信条を上回っていると分析されている。となると国民投票は政党の力関係では読めない要素が大きくなっていることになる。

 旧中・東欧のみならず、アフリカや中東諸国からの移民が押し寄せるフランスやドイツ、イタリアなどの欧州大陸の大国では、英国同様、移民への嫌悪感が高まっている。その一方、国民としてのアイデンティティー強化を主張する極右政党が支持を伸ばしている。彼らにとっても英国のEU離脱の動きは追い風と言える。

 キャメロン首相は8日の勝利宣言で、「一つの連合王国を統合していく」との考え強調した。背景には連立パートナーだった自由党が惨敗し、クレッグ党首が辞任に追い込まれた一方、スコットランドの独立を目指すSNPの台頭が国家の分裂に拍車を掛ける懸念があるからだ。最悪のシナリオは国民投票で離脱賛成が反対を上回り、英国はEUを離脱する一方、スコットランドは英国から独立し、EUに加盟するというものだ。

 独経済紙ハンデルスブラット(電子版)は、「机上の議論だった英国のEU離脱のシナリオは現実味を帯びてきた」とし、EUは試練の時を迎えたと指摘した。2014年、キャメロン政権は緊縮政策などで国内総生産(GDP)の成長率をEUのトップクラスに押し上げた。

 一方、経済好調なドイツは、ギリシャの債務危機などユーロ圏への財政支援で葛藤(かっとう)する日々が続いているという現実がある。混迷するユーロ圏に加入せず、EU経済を危機に追いやったギリシャ債務問題やロシアを巻き込むウクライナ紛争に対して、英国はEUの一員でありながら常に一定の距離を置き、英国経済の持ち直しに集中してきた観もある。

 キャメロン首相が保守党の勝利宣言を行った8日は、パリやベルリンなど各地で第2次世界大戦の終戦70年の記念式典が各首脳の出席のもと行われた日でもあった。ウクライナ問題に直接的に取り組むドイツやフランスにとって重要な一日だった。英国は内政に忙しく、外交での実績がないとの批判もあるが、英国のEUへのコミットメントは薄い。

 距離を保ってきた理由は幾つかあるが、一つは大陸欧州の大国が追求してきた福祉大国を基礎に置く社会民主主義的政治運営と袂(たもと)を分かってきたことにある。ブレア元英首相は政権を担った当時、欧州が社会主義から脱却することを強く訴えた。事実、ブレア首相の出身母体である英労働党の支持者は当時、労働者からホワイトカラーに移っていた。

 一方、フランスはサルコジ前政権時代にブレア氏に追随するような政策を実施したものの、リーマンショックやギリシャの債務危機を乗り切れず、社会党のオランド政権が誕生し、今に至っている。緊縮と景気回復という真逆の政策の間で左派陣営は苦しんでいる。

 移民問題では、後から加盟したポーランドなど中・東欧加盟国からの合法移民が急増する一方、イタリアなどにボートで流れ着くアフリカや中東からの不法移民が英国に押し寄せている。彼ら不法移民たちにとっては、人種や宗教差別を厳しく規制し、移民に寛容な英国は経済面だけでなく、欧州で最も魅力的な国になっている。

 英国は、EUが保障する人、金、物の移動の自由が移民を急増させ、イスラム過激派などのテロリストの追跡を困難にしていると批判している。英国は旅券検査を省略するシェンゲン協定には今も加盟していないが、英国はEU内での移動の自由に一定の規制を掛けることを主張している。

 これに対してユンケル欧州委員長の報道官は8日、EU基本条約に規定された移動の自由原則についての「交渉は不可能」と述べ、条約改正要求には拒否する姿勢を見せている。欧州委員会としては、これまで積み上げてきた統合の深化、拡大を逆行させるような改革は受け入れられないとの考えで、他の解決策を模索している。

 英国が抜けたEUは、確実に国際社会での影響力を低下させる一方、EU向け輸出が5割に上る英国経済の払う代償は非常に大きいと言われている。英国では大企業数社がEUから離脱した場合、本社機能を大陸欧州に移す意思を既に表明している。EUのトゥスク大統領も8日、英国の残留は「全加盟国の利益でもある」と訴えた。

 今回の総選挙でマスコミの予想が大きく覆されたことから、EU離脱を問う国民投票も読めないものが多い。今後のキャメロン政権の政治運営は問題山積だが、EUとしても英国の離脱を避けるため、柔軟な対応を迫られている。