仏紙リベラシオン、存亡の危機 支持されぬ左派系ジャーナリズム
部数減に歯止め掛からず
大規模な人員削減実施
フランスで3位の全国紙、リベラシオンが大規模な人員削減に踏み切った。社会党選出のオランド仏政権にありながら、社会党系の同紙の発行部数は激減状態だ。資本主義を代表する大株主による再建案が進む中、ネット時代の新聞媒体の存続の危機と左派系ジャーナリズムへの国民の不支持が重なる中、存続自体がますます危うくなっている。
(パリ・安倍雅信)
フランスでは、保守系新聞、ルフィガロ紙、中道左派のルモンド紙に続くリベラシオン紙が9月半ば、大幅な人員削減案を発表した。現在250ある正社員とパートタイムのポストから93のポストが削減されるというものだ。1973年の創刊以来、最大の人員削減となる。
フランス人哲学者ジャン=ポール・サルトルによって創刊された左派系新聞は、権力の番人として、社会正義を正していくジャーナリズムを展開し、多くの左派読者を獲得してきた。だが、発行部数の減少に歯止めを掛けることができない状態にある。
編集長のローラン・ジョフラン氏は「新聞を守るための避けられない決定」と今回の人員削減を説明している。同時にパリの一等地にある社屋を安価な地区に移転する計画も明らかにした。さらに印刷媒体としての新聞とウェブサイト、営業などの組織を改変し、従業員に対しても経営陣への批判を公の場で繰り返すことを禁じる方針を打ち出した。
同紙は、経営不振から2007年に銀行家のロッチルド(英語読みロスチャイルド)家の一人、エドゥアール・ド・ロッチルド氏の出資を受け入れた。しかし、当時、出資者の編集への介入が問題となり、論争が続いた。当時、約14万部だった発行部数は2013年末には10万部に落ち込み、現在は不動産王のブルーノ・ルドゥー氏が大株主として加わっている。
裁判所管理に陥ったリベラシオン紙の再建を主導するルドゥー氏は、同紙の「ソーシャル・ネットワーク」化構想、定着したリベラシオンのブランド化、本社ビル屋上をカフェにし、一般市民の意見交換をする場とする再建案を打ち出し、春には裁判所の承認を受けていた。
しかし、同再建案への同紙記者たちの反発は非常に強く、同紙1面を使い、新聞ジャーナリズムそのものに対する議論を読者に呼び掛けた。結果、多くの読者が議論に加わったものの、記者側の予想に反し「今、読者が必要としている情報が掲載されていない」「若者が読みたい記事がない」などの不満の声が上がってきた。
実は、リベラシオンの多くの古い記者たちは、左派が5月革命と呼ぶ1968年に学生運動に参加した世代で、政治家や官僚、企業経営者などの社会的権力を握る層を敵とする左翼運動家たちだった。彼らは社会主義を信奉し、権力者による社会悪を暴くことを最大の使命にしてきた。
その最盛期は、80年代から95年まで大統領を務めた左派出身のミッテランの時代だったが、2000年以降は下降の一途をたどっている。その背景には不況の長期化、高い失業率、増える移民と治安の悪化などから、社会党への支持率が減少していった影響もある。
その後、07年には強力な右派のサルコジ政権が誕生し、左派への支持率はさらに急落した。12年の大統領選挙では、富裕層を極端に優遇するサルコジ氏への嫌悪感から、社会党選出のオランド氏が大統領に選出された。だが、失業率は高止まりしたままで景気も回復しないため、歴代最低の支持率を更新し、今年春の統一地方選挙や欧州議会選挙で社会党は大敗を喫している。
リベラシオン紙は長年、社会党支持者によって支えられてきた新聞だ。発刊当初は資本家の影響を避けるため、広告掲載も行わなかった。その後、広告を受け入れながらも経営陣が編集に介入することを拒否し続け、崇高なジャーナリズムを展開する質の高い新聞を自負してきた。
しかし、フランス国民の間で過去の古い社会主義は問題解決をもたらさないとの考えが強まった。グローバル化の進展、欧州連合(EU)の統合拡大と深化により、伝統的な右派・左派の対立軸は曖昧化し、中道化が進み、両者ともに特色を出せないまま人心をつかむことができない状況に陥っている。
そのため、経営陣を批判するリベラシオンの記者たちの「言論の自立性」「報道の自由」「新聞こそわれわれの武器」などの主張とは別に、彼らが信奉する左派ジャーナリズムそのものが問われている事実は見逃せない。フランスは英米のジャーナリズムと違い、客観報道よりも記者独自の分析や信念に基づいた記事を評価する傾向がある。
一方、ネット時代の到来は他国同様、新聞業界には逆風となっている。日刊紙としてフランスで初めてウェブサイトを開設したリベラシオン紙だが、そこから収益を得るには至っていない。逆に08年にルモンド紙の元編集長、エドウィ・プレネル氏が創刊した調査報道専門のネット新聞、メディアパートは購読者数を大きく伸ばしている。
少数精鋭の熟練記者で構成されるメディアパートは今や政治家が最も気にするネット新聞の地位を獲得している。広告掲載は行わず、購読料だけで運営されているが、取材による質の高い記事を提供するとともに、読者の意見交換の場も提供し、アクセス数を増やしている。
フランスでは存亡の危機にある新聞メディアはリベラシオン紙だけではない。ルモンド紙でさえ、記者離れが加速し、大きく揺れている。メディアの在り方に根本的変化が起きている今、世界的にも新聞メディア業界は大揺れの状態だ。