戦後70年「驚くべき接近」、関係好転する独とイスラエル
ユダヤ人精神分析学者 オーストリア紙に寄稿
ドイツとイスラエル両国関係がここにきて急速に発展してきた。オーストリア日刊紙プレッセ4月29日付にオーストリアに住むユダヤ人精神分析学者、マーティン・エンゲルベルク氏が「ドイツとイスラエル両国の驚くべき接近」というタイトルの記事を寄稿している。読者にその内容を紹介する。
(ウィーン・小川 敏)
独語学ぶユダヤ人急増
大使館業務で協力も
ナチス・ドイツ軍が第2次世界大戦時にユダヤ民族に対してさまざまな蛮行を行ったことは周知の事実だ。ナチス軍は600万人のユダヤ人を虐殺したといわれている。人類歴史上、前例のない蛮行だった。
ドイツはユダヤ民族に対して謝罪と賠償を行ってきた。そして戦後70年を迎える今日、ドイツとイスラエル両国は驚くべき良好関係を築いてきたというのだ。
著者は「ドイツとイスラエル両国は真の友人関係を築いてきた。そのような関係が可能だと誰が想像できただろうか」という。
イスラエルに旅行したドイツ人は入国審査官が笑顔でドイツ語で話し掛けてくるのに先(ま)ず驚かされる。また、テルアビブのドイツ文化センター「ゲーテ・インスティトゥート」でドイツ語を学ぶユダヤ人が急増してきたという。
メルケル首相は2月末、イスラエルを訪問し、ドイツ・イスラエルの両国政府間協議を行ったばかりだ。戦後、5回目の政府間協議だ。
両国政府間協議の結果、イスラエルが大使館を有さない国ではドイツ大使館がイスラエルの利益代表部の役割を果たすという。イスラエルは将来、米国やオランダの大使館だけではなく、ドイツ大使館を通じても業務を行うことができる。
それだけではない。両国国民、特に若者は相手国で6カ月間合法的に働くことができる。ベルリンでは現在、3万人以上のイスラエル国民が働いている。その数は今後増えていくだろうという。
ドイツの大都市から日に最高5回、定期便がテルアビブに飛んでいる、といった具合だ。イスラエル国民にとって、ドイツは一層近くなってきた。両国国民の交流促進、経済的、社会的関係は想像を絶するテンポで発展してきたのだ。
シュタインマイヤー独外相はイスラエル日刊紙「イディオト・アハロノト」で「あなた方は独りではない」というタイトルの記事を寄稿し、その中で「イスラエルとドイツ両国関係は過去を乗り越え、素晴らしく発展してきた」と語っている。
エンゲルベルク氏によると、「イスラエルとの関係深化を願うオーストリアでも、ドイツの例から学んでいこうとする動きがある」という。
ちなみに、ドイツがイスラエルと関係を改善してきたことに対し、日本の過去問題を追及する韓国や中国から「日本はドイツから学ぶべきだ」という声がよく聞かれるが、同じ第2次世界大戦の敗戦国でもドイツと日本には大きな相違点がある。
ドイツはユダヤ民族と戦争していない。ユダヤ民族を虐殺したのだ。一方、日本は中国や米国と戦争した。戦争だから、戦勝国家と敗北国家に分かれる。敗北した日本は戦勝国家から敗戦国としての義務を課せられてきた。
戦後の賠償問題では、ドイツはユダヤ民族への償いに全力を投入してきた。そこには弁解の余地がなかったからだ。一方、敗戦国の日本は戦時中の関係国への賠償を支払ってきた。
すなわち、ドイツと日本は同じ敗戦国だったが、その過去問題の対応プロセスではおのずと異なってきたわけだ。