右派躍進し全域に影響も、欧州議会選挙でポピュリズム旋風

 3月末に行われたフランスの統一地方選挙で、右派・国民戦線(FN)が過去最高の得票率を記録し、大躍進を遂げた。5月に予定される欧州議会選挙でもFNの躍進は確実とみられ、欧州連合(EU)の他の加盟国にも影響を与えている。欧州で支持を集めるポピュリスト政党の中身と支持拡大の背景には、グローバル化への危機感も見えてくる。(パリ・安倍雅信)

仏統一地方選、民戦線が過去最高得票率記録

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マリーヌ・ルペン党首

 保守系週刊誌レクスプレスや大衆週刊誌パリ・マッチの世論調査によれば、5月に予定される欧州議会選挙のフランスでの政党別予想得票率で、FNがトップとなる可能性が高いことが明らかになった。

 同調査によるとFNの得票率は23%で1位、次いで最大野党・国民運動連合(UMP)の22%、与党社会党(PS)は19%だった。FNは3月に行われた統一地方選挙でも、獲得議席を大きく伸ばし、マリーヌ・ルペン党首の勢いを止めるのは不可能と仏マスメディアが伝えている。

 統一地方選挙でFNは、前回2008年の第1回投票時の得票率0・9%を4・76%に増やし、決選投票では6・75%とし、獲得議席数はそれまでの60議席から1381議席(他の極右政党を入れると1483議席)に増やした。また、FN選出の市長は2008年以降いなかったのが、14の自治体でFN市長が誕生した。

 前回2012年のフランスの大統領選挙でも、最も好ましい国家の指導者としてマリーヌ・ルペン党首が挙げられた。FNは単なる過激な極右の弱小政党というイメージを脱し、政権参加可能な政党へと脱皮するに至っている。

 ルペン党首は統一地方選挙を欧州議会選挙の前哨戦と位置付け、EU加盟国の「反欧州統合」「反移民」を掲げる政党との連携を準備してきた。地方選での大躍進で弾みをつけたFNは、欧州議会内に新会派を創設するため、他の加盟国のポピュリスト政党への働き掛けを強めている。

 欧州議会で新会派を作るには7カ国から25人の議員が必要となるが、主張の近い他の加盟国の政党との連合作りに向け、活動を活発化させている。ルペン党首が最近招待を受けたオランダの極右政党・自由党との会合では、同党のヘルト・ウィルダース党首から「ルペン女史は、将来フランスの大統領になる人物だ」と紹介された。

 オランダの自由党は、2010年に行われた下院選挙(定数150議席)で、「イスラム諸国からの移民受け入れ停止」「コーラン発禁処分」「スカーフ着用者への課税」などの公約を掲げ、イスラム系移民の増加に不快感を持つ有権者の支持を集め、選挙前の9議席から24議席に躍進し、同国の第3党となった。

 その結果、フランス同様、同党が主張していたイスラム系女性が外出時に全身を覆うブルカの着用を禁止する法案を2011年に閣議決定している。ウィルダース党首は「これ以上多くのモロッコ人が増えてほしいと思うオランダ人はいない」などと主張し、イスラム文化の流入に戸惑うオランダ市民の心をつかんでいる。

 一方、FNとの協力関係を協議しているイタリアのポピュリスト政党・五つ星運動を率いる人気コメディアンのベッペ・グリッロ氏が巧みな演説で国民の支持を拡大している。欧州議会選挙ではイタリアで21%の得票率で2位に付けるとみられている。

 五つ星運動は、近年の欧州経済危機でイタリア政府も大規模な経済改革を強いられ、雇用不安や増税で不満が高まる中流層・下流層から急速に支持を集めている。グリッロ氏は「国民は怒っている。私はポピュリストであることに誇りを持っている」と述べている。 欧州におけるポリュリズムは、大衆迎合などネガティブなものとは受け止められていない。政治家やエリート官僚が国民の要求を十分に理解できず、政治に反映されない場合、大衆が声を上げ、その声を受け止める政党が現れ、国会に要求を伝えるのは民主主義の基本原則と考えられているからだ。

 EU加盟国から怒りの声が上がっている理由は、欧州経済危機に対して欧州議会や欧州委員会の役人たちが、国民を守ってくれなかったばかりでなく、景気を減退させる緊縮財政を各国に強いていると受け止められているからだ。

 実際、フランスでは欧州議会議員の給料は、フランス国民議会議員の給料より高額だったり、域内の移動経費が保障されていたり、厚遇されている。加盟各国の経済が疲弊し、失業率が下がらない現状では、欧州議員やエリート官僚への反発は強まる一方だ。

 ポピュリズムの拡大は失業率が低い国でも起きている。オーストリアではナショナリズム色の強い自由党が欧州議会選挙で22%の得票率を獲得するだろうと予想され、フィンランドでも移民受け入れに反対する真のフィンランド人党が18%の得票率を得るだろうとされている。

 同党は2011年の議会選挙で同国第3位の政党にまで成長した。反EUで知られる同党は、自らの経済運営の失敗から財政危機に陥ったギリシャを加盟国が救済する事態に強く反発し、EU離脱を求める有権者からの支持を集めている。

 現在の予想では、欧州議会選挙でEU加盟28カ国中、8カ国でポピュリスト政党が記録的躍進を遂げることが予想されている。その一方で、彼らが会派を作ることはできないのではという予想もされている。

 好転しない経済・雇用情勢や、移民問題に不満を募らせる市民の支持の受け皿になっているポピュリスト政党だが、多くのEU市民が好況感を持てない状況を肌で感じている。フランスの内務省が明らかにした統計では、同国への移民の数は増え続けている。

 これに対して、移民の流入制限だけでなく、オランダの自由党のように国外追放も視野に入れた政策を打ち出すポピュリスト政党への支持は、確実に高まっている。また、EUを脅威にさらした経済危機は、グローバル化とリンクしていたため、保護主義を求める右派が支持を集めている。