フランスの治安悪化いまだ深刻、農村部での被害顕著
3月の統一地方選に影響か
フランス内務省は2013年の犯罪統計と14年の展望を発表し、地方農村部を中心に治安悪化していることが明らかになった。政府は治安対策が強化されていることを強調しているが、国民の不安は広がる一方だ。3月に予定される統一地方選挙に与える影響は大きいとみられ、野党は政府への攻撃の手を強めている。
(パリ・安倍雅信)
今年1月23日に仏内務省は「治安政策の現状と展望」と題する報告書を公表した。それによると13年は、窃盗や空き巣の件数が増加している。空き巣被害件数は前年比、大都市で6・4%、農村地帯で4・7%増加している。特に農村地帯の別荘を狙った空き巣が18%近く増えている。
一方、女性のバッグなどを狙った引ったくりも前年比、全国平均で11%増加している。一方、暴行事件は都市部で0・9%増、農村地域では5・7%の増加を見せており、農村部の治安悪化が顕著になっている。
逆に商店を標的にした窃盗事件は減少傾向になり、都市部で前年比、0・3%減、農村部で0・6%減となっている。その一方で拳銃や刃物などの武器を使用した強盗犯罪は減っておらず、今月に入っても拳銃を用いた宝石店の襲撃事件が起きている。
フランスでは個人の住宅を標的とした強盗事件は、全国で1日平均1000件以上起きている。武器で武装した強盗による被害が増える中、世論調査では特に農村部の孤立した一軒家に住む住民は、年々危険を感じる度合いが高まっていると指摘している。
仏西部ブルターニュ地方マルティニエ・フェルショに住むジェローム氏は昨年12月、武装した強盗がいきなり施錠してある玄関のドアを打ち破って入ってきて、銃を突き付けられ、現金と金目の装飾品や家電製品などを持っていかれる被害に遭った。
ジェローム氏の家の玄関のドアは1年前に4カ所ロックできるドアに交換したばかりだが、強盗はドアごと破壊し、侵入してきた。ジェローム氏の証言では、2週間の間に周辺の家5件が同じような被害に遭っているという。警察は非定住民のロマによる犯行とみて捜査を進めているが、彼らは既に遠くに移動した可能性が高いとみられている。
仏国営TVフランス2は、厳重といわれる住宅に取り付けられた錠を簡単に開けてしまう道具を売っている業者の存在を紹介している。保険会社も厳重なドアの設置を個人住宅に求めており、年々保険料も上昇している。
公表された犯罪統計によれば、過去5年間、窃盗や空き巣被害は増え続けている。11年は前年比17%増、12年は8%増、13年は4・75%増だった。バルス内相は「13年上半期の増加率が非常に高かったため、窃盗や空き巣対策強化を実施し、4・75%に抑えることに成功した」としているが、効果を疑う声も聞かれる。
また、バルス内相は農村部での空き巣、強盗被害が拡大しているのを受け、「農村部での対策を強化する」と述べている。保守層の多い農村部での治安悪化は3月に予定される統一地方選挙でも与党候補者に悪影響を与える可能性があることが指摘されている。
一方、麻薬密売の逮捕件数は13年、前年度比で12・6%増えている。特に大麻の差し押さえ件数が前年度比35・7%も増えており、起訴件数も30・7%増となっている。政府は取り締まりが強化された結果と評価しているが、実際、麻薬需要の増減の数字は示されていない。その一方で都市部での暴行事件は29・5%減と顕著な減少を見せている。
政府は12年夏以降、治安優先地区(ZSP)を指定し、警官の増員、監視カメラの増設を優先的に行っている。同地区は、他の地区に比べ犯罪発生率が高く、特に窃盗および強盗、性犯罪および恐喝を含む対人暴力、麻薬関連の犯罪、不良グループ同士の衝突、暴動などが起きやすいことが選定の根拠としている。
今回の報告では、特にZSP地区では空き巣や強盗被害件数が多少減少に転じ、暴力事件は10%以上の減少を見せ、政府は指定地区での治安強化が効果を上げていると指摘している。しかし、その一方でZSPには指定されていない農村部での空き巣や暴行事件が増加傾向にあり、今後に課題を残した。
フランスでは治安を脅かす要素に北アフリカ系移民の若者らによるものと、ロマによるものが挙げられている。両者共に政府は同化政策によって彼らを教育し、法の順守、フランス社会への適応を施している。
しかし、実際には移民系の若者は十分に教育のサポートを受けておらず、雇用においても失業率は白人フランス人の2倍を超えている。ロマについては教育を受ける以前に親が市民生活に順応していない現状もあり、同化政策を進める上でのハードルは高い。また、両者共に強い差別を受けているとの意識が強い。
治安問題は高い失業率とリンクしていることもあり、政府は雇用創出に向け、企業の社会保障負担軽減を盛り込む「責任協定」を政策として打ち出す方針だ。同協定について、オランド仏大統領は、協定と引き換えに企業側が取り組む雇用増は「明快で計測可能なものでなければならない」と述べ、具体的内容の伴った措置を求める考えを示している。
フランスの失業率は最近のもので10・8%と16年ぶりの高水準にある。12年に大統領に就任したオランド氏は、サルコジ前政権の緊縮政策を批判し、高所得者層へ最大75%の税率を課すことなどを公約したが、景気回復にはつながらず、雇用悪化、治安悪化を招いている。
3月に行われる統一地方選挙では、最大野党の中道右派・国民運動連合(UMP)を始め、右派・国民戦線(FN)などが、政府与党の雇用および治安対策に対して批判を強めることは必至とみられている。実際、オランド大統領およびエロー仏首相の支持率が歴代最低を更新している最大の理由が雇用問題であり、治安問題もつながっている。