「法と正義の原則」で北方領土問題の解決を

きょう36回目の「北方領土の日」

強硬姿勢崩さないロシア

 2月7日のきょう、36回目の北方領土の日を迎えた。日本は、固有の領土である北方領土の返還に向けた取り組みを長らく続けてきたが、依然としてロシアによる不法占拠が続く。ロシア側が強硬姿勢を崩さない中、日本は毅然(きぜん)として「法と正義の原則」に基づく解決を求めていく必要がある。
(政治部・山崎洋介)

 北方領土問題を戦後政治の総決算として最大の外交課題と位置付ける安倍晋三首相は、就任以来、プーチン大統領との首脳会談を重ね、早期解決に向けた取り組みを続けてきた。先月4日の年頭記者会見で安倍首相は、「北方領土問題は首脳間のやりとりなしに解決できない」と指摘。プーチン大統領の訪日に関しては「引き続き最も適切な時期を探っていく」と意欲を示した。

 北方領土問題が70年以上も未解決という状況の中、安倍首相は、プーチン大統領と個人的な信頼関係を築き、活路を開くことを目指す。しかし、ロシア側は高圧的な言動を繰り返し、歩み寄る姿勢を見せない。

 北方領土問題の発端は、当時のソ連が千島列島や北方四島を終戦の1945年8月15日以降に占領し、一方的に編入を宣言したことにある。冷戦が終わり、ソ連が解体すると、領土問題はロシアに引き継がれ、93年、北方四島の帰属問題を「歴史的事実に立脚し、法と正義の原則を基礎として解決する」と謳(うた)った東京宣言で両国が合意。しかし、その後は、我が国で短命政権が続いたことなどもあり、交渉は進展しなかった。

 その間、原油価格高騰によるオイルマネーを背景にした経済力で自信を深めたロシアは、大規模なインフラ整備や資源開発、軍備の強化など、実効支配を強めた。民主党政権下の2010年には、当時のメドベージェフ大統領が上陸するという暴挙に出た。

 第2次安倍政権発足後の13年4月29日に両首脳は、「双方に受け入れ可能な解決策を作成する交渉を加速化させる」として交渉を再スタート。56年の日ソ共同宣言や01年のイルクーツク声明など、両国政府が交わした諸文書に沿って交渉を加速することも明記された。

 しかし、ウクライナ問題を発端にロシアと欧米の関係が悪化する中で、再び交渉も停滞。昨年8月には、メドベージェフ首相が、自身3回目の北方領土訪問を強行。9月2日にサハリンで行われた軍事パレードに参加したプーチン大統領は、中露の国営通信社とのインタビューで、「欧州でもアジアでも大戦の歴史を見直す動きが見られる」と述べ、暗に日本の領土返還要求を牽制(けんせい)した。

 今年に入ってからも、ラブロフ外相は「平和条約と領土問題の解決は同義ではない」と述べ、領土問題を棚上げして、経済的な協力を進めようという意思を露骨に示している。ラブロフ氏は昨年9月の岸田文雄外相のモスクワ訪問時の共同記者会見でも「北方領土は議論していない」と一方的に主張した。

 東京宣言では、択捉、国後、色丹、歯舞の四島の帰属問題を解決した上で平和条約を締結すると合意されたはずだ。こうした過去の合意内容を一切顧みないロシア側の一連の言動からは、北方領土問題を真摯(しんし)に解決しようとする姿勢は感じられない。

 ロシアの強硬姿勢の背景として指摘されるのは、ナショナリズムの高まりだ。ウクライナのクリミア半島編入などで国際ルールを無視し、「力による現状変更」を強行するロシアは、欧米諸国から非難を浴びた。その一方で、国内ではむしろプーチン大統領への支持率が上昇している。こうした状況の下では、領土問題で歩み寄ることは容易でないと考えられる。

 ロシアによるシリア空爆を巡っても米国との対立が先鋭化しており、過度の対露接近は、米国の疑念を招きかねない状況だ。安倍首相は、ゴールデンウイーク期間中のロシア訪問を検討しているが、そこには、日本を欧米諸国から分断しようというロシア側の狙いもあるとみられる。

 今年、日本は先進7カ国(G7)の議長国を務める。首相は年頭の会見で、「自由民主主義、法の支配、人権といった普遍的価値のチャンピオンであるG7の議長として、地域や世界の平和と繁栄のためにグローバルな視点に立って、世界をリードしていきたい」と抱負を語っている。

 ロシアによる「力による現状変更」と、南シナ海での人工島造成や尖閣諸島周辺の領海侵入などで活発化する中国の海洋進出とは同質のものと言える。ロシアに対しても普遍的価値の原則に基づいて、欧米諸国との協調を図る方向に導くことが大切だ。

 まずは北方四島の返還を実現させた上で、ロシアとの経済面での協力も推進すべきだ。新たに拓(ひら)けつつある北極海航路や天然資源開発など、さまざまな分野での協力の可能性がある。

 ロシアは、欧米による経済制裁や原油価格の低下で経済的な苦境に陥っている。欧米諸国への対決姿勢を誇示し支持を集めてきたプーチン大統領だが、こうした状況が続けば政府に対する不満が高まる可能性もある。元島民の高齢化が進み平均年齢は80歳を超える中、早期返還が何よりの悲願だが、今後の欧米とロシアの関係、ロシア国内の情勢の変化をしっかり見極めた上で、戦略を構築する必要があるだろう。