感銘与えた未来志向 安倍首相の米議会演説
繁栄導く「希望の同盟」提唱
【ワシントン早川俊行】安倍晋三首相は29日に日本の首相として初めて行った米議会上下両院合同会議での演説で、日米が力を合わせ自由や民主主義など共通の価値観を世界に広めていく「希望の同盟」を築こうと呼び掛けた。戦後70年の節目に、未来志向に満ちたメッセージを堂々と語るその姿は、米国の議員たちに「同盟国の頼れる指導者」との鮮烈な印象を植え付けたとみられる。 首相のスピーチライターである谷口智彦内閣官房参与が中心になって準備したとされる演説文は、米国人の国民性や感性への綿密な配慮が施された、極めて洗練された内容だったといえる。首相も毎日、練習に取り組んだとされ、自信を持って語り続けた45分間の演説は風格さえ漂わせた。
演説会場には、硫黄島での日米の激戦を体験したローレンス・スノーデン元米海兵隊中将(94)と、同島の守備隊司令官だった栗林忠道陸軍大将の孫、新藤義孝前総務相(57)を招待。首相は2人が並んで座っていることを「これを歴史の奇跡と呼ばずして、何をそう呼ぶべきか。熾烈(しれつ)に戦い合った敵は、心の紐帯(ちゅうたい)が結ぶ友になった」と語ると、盛大なスタンディングオベーションが巻き起こった。日米和解を象徴する感動的な演出は、演説最大のハイライトとなった。
安全保障問題については、集団的自衛権の行使容認など外国人には分かりにくいテーマへの具体的な言及は避け、明解な言葉で日本の方針を説明することに徹した。中国が海洋進出を活発化させていることを念頭に、「太平洋からインド洋にかけての広い海を、自由で法の支配が貫徹する平和の海にしなければならない」と述べたほか、「国際協調主義に基づく積極的平和主義」を新たな旗印に「世界の平和と安定のため、これまで以上に責任を果たしていく」と表明した。
注目された歴史問題では、首相はワシントンの第2次世界大戦記念碑を訪問したことを明らかにした上で、「私は深い悔悟を胸に黙祷(もくとう)をささげた。先の戦争に斃(たお)れた米国の人々の魂にとこしえの哀悼をささげる」と語ると、拍手喝采を浴びた。また、慰安婦問題を念頭に「紛争下、常に傷ついたのは女性だった。女性の人権が侵されない世の中を実現しなくてはならない」との表明に対してもスタンディングオベーションを受けた。
韓国・中国系住民の支持を受ける一部議員は、首相が謝罪まで踏み込まなかったことに不満を示しているが、戦争犠牲者に対する首相の哀悼の誠は多くの議員の胸に響いたとみられる。
苦い過去に触れつつも、日米が協力して世界の繁栄を主導していく「希望の同盟」という未来志向のメッセージが、深い感銘を与えたことは間違いない。演説終了後、首相に握手やサインを求める議員が後を絶たなかったことが、それを物語っている。