吉田沙保里、死闘の末に活路を開く
新たな向上心、16大会連続世界一
敗北が頭をよぎる死闘だった。マットソンとの決勝を制し、世界大会16度目の頂点に就いた吉田は息が乱れ、膝に両手をついたまま動けなかった。6分間の攻防の末、その差はわずか1点。「危ない。途中で負けるかと思った」と言うほど、苦しめられた。
消極姿勢による警告で1点を先取され、持ち味の高速タックルを封じられた。がぶり返しで目先を変えても流れが来なかったが、第2ピリオド開始から25秒間で2度、立て続けに足をつかんでタックルから場外に押し出して逆転。相手をマットに落とせず、「研究されているな」と感じながらも、勝利への活路を開いたのはさすがだった。
リードしてからの2分余りは耐えた。両足をつかまれても相手に絡み付き、残り30秒で場外に押し出されそうになったが、必死に踏ん張った。
追われる立場での戦いを長年続けてきたが、今大会は「負けたらどうしようと考えて、不安でしょうがなかった」という。32歳になり、体力は落ちてきた。若い選手が自分を倒そうと全力でぶつかってくることへの怖さは年々増している。
前人未到の4連覇を狙う来夏のリオデジャネイロ五輪の前哨戦で、際どい一戦を強いられた。危機感を覚えつつ「(相手の懐に)入る前の動きとか、崩し、いなし。タックルを生かしながら、そういうところも勉強したい」と新たな向上心が芽生えた。女王はまだ、その背中をつかませない。(ラスベガス時事)