野口弘美さん「あの日から時間は止まったまま」


御嶽山噴火で夫亡くした女性、犠牲者の遺族と交流

野口弘美さん「あの日から時間は止まったまま」

噴火で死亡した野口泉水さんが残した写真を手に、取材に応じる妻弘美さん=23日、長野県池田町

 「あの日から時間は止まったまま」。長野県池田町の野口弘美さん(57)は、御嶽山の噴火で亡くなった夫の泉水さん=当時(59)=が最期に撮った写真を手に静かに語る。写っているのは、迫り来る大きな噴煙。「登山に行く人は、これと同じ噴煙を見たらすぐ逃げて」。弘美さんは大切に保存しているこの写真を、多くの人に見て記憶してほしいと願っている。

 「人の悪口を言わない優しい人。リーダーシップがあって、物知りだった」。弘美さんはそんな夫を尊敬していた。毎月1、2回は一緒に登山などへ出掛ける仲の良い夫婦だった。しかし、昨年9月27日は仕事が休めず、夫が初めて1人で登ったのが御嶽山だった。「温泉に入ってから帰る。もし遭難したら捜しに来てね」と冗談を言い残したという。

 遺体は頭など4カ所に噴石を受けていた。弘美さんは「行きたいと言われたとき、駄目だと言わなかったことを後悔している」と打ち明け、「ずっと一緒だったから私の人生そのもの。それが半分なくなってしまった」と涙ぐむ。

 最期の写真は、山頂の小屋の陰に隠れる人の姿もとらえていた。「噴火だと気付かず、すごい写真を私に見せようと思ったのでは。いつまでも撮っているから…」。カメラは噴石でへこみ、一部溶けていたが、画像データは無事だった。

 弘美さんは夫の最期の様子を知りたいと思い、同じように写真を残した犠牲者の遺族と交流を始めた。「人の写真をもらうと、点と点が線でつながるから」。4月19日には、同県松本市で開かれる遺族会の発足式にも参加するつもりだ。「同じ経験をした人と話すと、分かってもらえるし、分かってあげられる気がする」と心境を明かす。