白鵬前人未到の地に、生涯追う大鵬の背中
「昭和の大横綱」大鵬を抜き単独最多のV33
ついに頂点に立った。白鵬が大鵬を抜いて歴代最多となる通算33度目の優勝。「超えて本当の恩返し」と位置づけていた所に達した。
白鵬は、大鵬を「角界の父」と慕ってきた。「まだ大鵬関の生き方にはたどり着いていない。超えてから2、3年、自分の責任を果たせば、大鵬関が一人旅で見えていたものを少しは感じられるのかと思う」。記録では上回っても、その背中を生涯、追い続ける覚悟だ。
大鵬の弟子だった大嶽親方(元十両大竜)は「師匠は一切の妥協を許さなかった。『現役時代は孤独だった』と漏らしていた」と振り返る。不世出の大横綱から受けた薫陶は、不祥事に揺れた角界を第一人者として引っ張った白鵬の力になったに違いない。
白鵬は周囲の声によく耳を傾ける。その謙虚さを本人は「まだ強くなりたいし、まだ心の隙があるから。もっといろいろ学びたいという気持ちが強いのかもしれない」と語る。
そんな白鵬だからこそ、北の湖理事長(元横綱)は「どんどん若手を引き上げてほしい」と期待する。横綱審議委員会の稽古総見などで、自分本位の調整をうかがわせることがある。感情的な取り口や駄目押しを見せる場面も。
大嶽親方は「師匠はただ勝てばいいという相撲ではなかった。相手を受けて、取らせてから仕留める横綱相撲だった」。これこそ白鵬が追い求める「後の先(ごのせん)」の境地だろう。
「勝負の世界だが、そこにこだわっていると、人として大きく成長できないのではないか。相撲道というのは、自分を知ることが生きる道だから」と白鵬。前人未到の地に、どんな道が見えたか。