東日本大震災や原発事故に負けず、宇宙へ


「はやぶさ2」の衝突装置、新探査機器は福島製

東日本大震災や原発事故に負けず、宇宙へ

はやぶさ2に搭載された衝突装置の製造を担当した日本工機白河製造所の藤垣雄一品質保証部長(写真中央)ら=17日、福島県西郷村の同社

 宇宙に出発する小惑星探査機「はやぶさ2」には、新しい探査機器が搭載されている。その一つ、爆薬で弾丸を加速させて小惑星に打ち込み、人工のクレーターをつくる衝突装置(インパクター)は福島県で製造された。開発中に東日本大震災と原発事故が起き、東北のものづくりは大きな打撃を受けた。担当者らは「福島や東北の製造業の力を世界に見せる」と意気込んでいる。

 衝突装置は重さ約10キロ。ステンレス製の円すい形容器の底が薄い銅板でふさがれており、中に火薬と樹脂を混ぜた爆薬が詰めてある。爆発で銅板は秒速2キロまで瞬時に加速しながら、半球状に変形。小惑星の表面に激突して直径数メートルのクレーターをつくる。

 装置を作ったのは産業・防衛関係の爆薬メーカー、日本工機白河製造所(福島県西郷村)。宇宙航空研究開発機構から打診を受けた藤垣雄一品質保証部長は突然の話に驚いたが「夢のある話。ぜひやりたい」と受注を決めた。

 2011年の初めから本格的に製造を開始。爆薬では豊富な経験を持つ同社だが、宇宙という特殊で過酷な環境に、試行錯誤が続いた。計算通りに爆発させるため、爆薬の配合を調節しては実験やシミュレーションを繰り返し、爆薬を均一に詰めるため1日がかりで充填(じゅうてん)するなど苦労を重ねた。

 銅板がきれいな球形の弾丸になるには、ステンレス製容器との溶接が均一であることも重要だ。担当した東成イービー東北(郡山市)の矢田部靖国さんは「溶接しては壊して、検査してを何百回と繰り返した」と明かす。H2Aロケットの部品の溶接を担当した経験はあったが、技術的なハードルは段違い。「普段は見えない部分の加工が多いので、脚光を浴びる部分に携われるのはうれしい」と話した。

 外側の容器の加工は石川製作所(鏡石町)が担当。厚み1ミリのステンレスを高精度に成形する独自のノウハウを投入した。震災で加工機械の半数が稼働不能になったが、社員総出で復旧。打ち上げに間に合わせるため、厳しい納期に必死で対応した。

 同社の渡辺裕基さんは「原発事故で子どもや妊婦が県外に避難した。はやぶさ2を通じ、福島にいたことを誇りに思ってもらえれば」と話した。