言葉のいらない大相撲の師弟


境川親方と新大関の豪栄道、10年をかけて大輪の花

言葉のいらない大相撲の師弟

大関昇進の伝達式を終え、笑顔で会見する豪栄道(左)と境川親方=30日、愛知県扶桑町の境川部屋宿舎

 大相撲の豪栄道(28)本名沢井豪太郎、大阪府出身、境川部屋が30日、大関に昇進した。師匠の境川親方(元小結両国)の人柄に引かれて選んだ部屋で、10年をかけて大輪の花を咲かせた。

 激しい稽古に打ち込む力士に、師匠の容赦のない怒声が響いた。体験で訪れた境川部屋の張り詰めた空気は、当時18歳の高校生だった沢井豪太郎の心を引きつけた。「この部屋の厳しい雰囲気の中でやれば強くなれる」。そう確信して入門を志願。境川親方は「(高校横綱という)大物だし、まさかうちに来るとは思わなかった」。

 互いに余計なことは言わず、「1秒あれば会話が終わる」(境川親方)。稽古中は師匠からの短い助言に、豪栄道が「はい」と答えるだけ。「『俺には相撲しかないんだ』という気概は、入ったときからあった。それを伸ばしてやるのが自分」と親方。豪栄道は「師匠は一緒に泣いて喜んでくれる、熱い人」。ゆるぎない信頼があるからこそ、言葉がいらない。

 2012年名古屋場所。豪栄道は脇腹を骨折しながら出場を続け、14日目に休場するまで「大丈夫」とだけ繰り返した。先の名古屋場所では、12日目に左膝を負傷。翌日からテーピングをして出た。しかし、師匠も本人も、場所が終わるまで状態を明かさなかった。敗戦をけがのせいにしない、昔かたぎで知られる師匠の性格を弟子が受け継いだ。

 「強さに過信せず、稽古は本当に一生懸命やる。そういうところを相撲の神様がちゃんと見てくれた」。伝達式後の記者会見では、人前でめったに弟子を褒めない師匠が絶賛。隣のまな弟子は、少し恥ずかしそうな顔を浮かべながらも「次の目標は優勝」ときっぱり。さらなる恩返しを誓った。