ウクライナ侵攻、台湾への波及をめぐり論争
米国の対応を注視、蔡英文総統は中国の「情報戦」を警戒
ロシアのウクライナ侵攻を受け、台湾では、ウクライナと台湾の立場の類似性や違いをめぐる議論が活発化している。台湾も「祖国統一」を目指す中国の軍事圧力に直面しており、米国の対応が甘ければ中国を勢いづかせるという見方が広がっているためだ。蔡英文総統は「ウクライナと台湾は本質的に異なる」と強調。不安をあおる偽情報に惑わされないよう呼び掛けている。
中央通信社は侵攻翌日の25日、「中国が混乱を利用して台湾を攻撃するのではないかと国際社会は懸念している」と紹介。主要紙・聯合報は、中国の習近平国家主席(党総書記)にとっては「秋の共産党大会に向けた安定性が重要」であり、台湾侵攻は考えにくいとする専門家の分析を掲載した。「きょうのウクライナはあすの台湾か?」。新聞やインターネット上の議論では、こうした疑問が取り上げられている。
ただ、有識者らの関心を集めるのは、短期的な侵攻の可能性よりも、中国に対する米国の抑止力だ。軍事専門家の宋玉寧氏は「ロシアへの対応が軟弱なら、中国は米国が台湾のことも積極的に防衛しないと考え、侵攻の可能性が高まるだろう」と語る。
主要メディアでは、対米関係などから「ウクライナと台湾は違う」として、米国の抑止力に疑問符を付ける解説はほぼない。一方で、中国寄りとされる中国時報は、軍事介入しなかった米国には「海外での戦争に投資する意思も核保有国と戦う勇気もない」と指摘した。ロシアと対立し重大な危機にひんしているウクライナを教訓に、台湾は中国との良好な関係づくりに努めるべきだという主張だ。
蔡総統が最も警戒するのは、こうした論争の中で中国側が仕掛ける「情報戦」だ。蔡氏は25日、自身のフェイスブックで「ウクライナ情勢を利用してパニックを生み出そうとする偽情報に、全員が注意しなければならない」と訴えた。「米国が台湾を見捨てる」(政府関係者)という印象を与えるフェイクニュースの拡散が念頭にあるとみられる。(台北時事)