フィギュア男子SP、羽生結弦は出遅れ8位
「氷に嫌われた」思わぬ落とし穴、踏み切りで重なる
誠実に競技と向き合い続けてきた羽生が、「氷に嫌われちゃったな」と嘆いた。男子SPの冒頭で予定していた4回転サルコーは、体がふわりと浮いただけの1回転。演じ終えると、すかさず踏み切り位置の確認に向かい、氷を触る。そして恨めしそうに何かを口にした。
四方に礼をし、リンクを出る前にまたそこを見て、氷に触れた。「穴に乗っかりました」。他の選手のトー(爪先)を突くジャンプでできたくぼみが、サルコーの踏み切りとちょうど重なった。
自分が直前練習で残したくぼみに足を取られ、苦い思いをすることがこれまでにあった。この日はあえて本番と跳ぶ場所をずらし、万全を期したが、それでも落とし穴が待っていた。「何か悪いことをしたからこうなってしまったのか、としか考えられないくらいのミス」。何とか現実を受け入れようとした。
ただ、気持ちは切らさなかった。4回転-3回転の連続トーループは出来栄え点(GOE)で4・07点もの加点を引き出し、後半のトリプルアクセル(3回転半ジャンプ)も軽やかに跳んだ。序盤は優しく、徐々に激しくなるピアノの調べに乗り、スピン、ステップも本来の羽生だった。
「長くいればいるほど、だれてくる」という理由で、現地入りは2日前。本番リンクで滑ったのは、SP当日の朝に設定された30分間の公式練習が初めてだった。それを約20分で切り上げた。状態は「かなりいい」。それは全体の演技で示した。
95・15点で羽生には似合わぬ8位。トップのチェンには19点近くも離された。鍵山と宇野にも差をつけられ、表彰台すら厳しいかもしれない。
フリーでは前人未到のクワッドアクセル(4回転半)成功を期す。「皆さんの思いを受け取りつつ、完成されたもの(演技)にしたい」。94年ぶりの3連覇がたとえかすんでも、史上初の偉業へ果敢に挑む。
(時事)