「大間産」で不正、揺らぐクロマグロの資源管理


漁獲実績の報告せず、「正直者がばかを見る」厳格化課題に

「大間産」で不正、揺らぐクロマグロの資源管理

マグロの初競り前に品定めをする関係者=2019年1月5日、東京都江東区の豊洲市場

 高級なすしネタや刺し身として人気が高い太平洋クロマグロの資源管理をめぐり、ブランド産地の青森・大間で不正行為が発覚、関係者の間で懸念が広がっている。放置すれば国際的な信頼をも揺るがしかねず、不正防止に向け、漁獲量や流通量の厳格な管理体制構築が課題となっている。

 水産庁はクロマグロの乱獲を防ぐため、国際合意に基づき小型魚(30キロ未満)と大型魚(30キロ以上)に分けて漁獲量の枠を設け、都道府県や漁法別に配分している。今年度の青森県の大型魚漁獲枠は543トン。漁業者に枠の順守を求めるとともに、漁獲実績の報告を義務付けている。

 しかし昨年11月、大間産クロマグロの今年度の漁獲量のうち10トン超が報告されずに県外へ流通していたことが判明。政府関係者は「不正は氷山の一角」としており、未報告が横行すれば漁獲枠を超過して水産資源管理が有名無実化しかねない状況だ。

 大間産は2019年に開かれた東京・豊洲市場(江東区)の新春の初競りで1本3億円超えの高値を記録するなど、クロマグロの中でも最高級品とされる。ブランド価値の高さが不正につながったとみられるが、地元の漁業関係者は「正直者がばかを見る」と憤る。

 水産庁は違法な水産物を市場から締め出すため、品目ごとに漁獲番号を割り振って漁業者らに取引記録の保存を義務付ける制度を今年12月から始める。ただ、対象は密漁リスクの高いアワビなどに限る方針が示されており、クロマグロは対象外。現状ではクロマグロの正確な漁獲量や流通ルートの把握は難しく、漁業者任せの甘い管理を続ければ国際社会からの批判が高まるのは必至だ。

 水産物の資源管理に詳しい学習院大の阪口功教授は「水揚げしたクロマグロにも漁獲番号を付け、(不正な商品を)購入した業者にも罰則を適用することが必要だ」と話している。

 太平洋クロマグロ 日本周辺で産卵し、太平洋を広く回遊する魚種。本マグロとも呼ばれ、マグロの中でも最高級品とされる。青森・大間や北海道・戸井などが日本を代表する産地。日本のほか、台湾や米国なども漁を行う。資源量減少を受け、日米などが加盟する「中西部太平洋まぐろ類委員会(WCPFC)」が2015年から漁獲枠を設ける国際的な規制を導入。規制が奏功し、10年に約1万800トンと過去最低だった親魚の資源量は18年に約2万8200トンへ回復した。