朝鮮王朝時代を全編モノクロームで描く
映画「茲山魚譜―チャサンオボ」、11月19日より公開
1801年、李氏朝鮮時代第22代国王・正祖(チョンジョ)亡き後を継いだ幼き王、純祖(スンジョ)に変わり曾祖母の貞純(チョンスン)王后が権力を握ると、天主教(カトリック)に対する迫害を行い、正祖の側近たちを追放した。熱心なカトリック教徒であった学者の丁若銓(チョンヤクチョン)(ソル・ギョング)は、弟・丁若鏞(チョンヤギョン)とともに流刑となり、もう一人の弟・丁若鍾は死刑となった。
黒山島に流された丁若銓は、生活は貧しいが美しい自然と多くの海洋生物が生きる豊かな海、何よりも素朴で親切な人々に出会い心がほどけていく。次第に海の生き物たちの魅力にとりつかれ、庶民のための「海洋生物学書」を書きたいという思いに駆られる。
若き漁夫・昌大(チャンデ)(ピョン・ヨハン)の最大の関心は書を読む事。えり好みせずに書を読み漁っているが、独学による文字の勉強にも限界を感じていた。そんな若き漁夫がいることを知った若銓は、学問を教える代わりに生物や海についての知識を自分に伝授するよう取引を持ち掛ける。
全編モノクロームで描かれた作品。学者の丁若銓を演じたソル・ギョングは「シナリオを読めば読むほどキャラクターに没入し、泣いた」というほど役にのめり込んだ。意外だが、今作が初の時代劇の出演となった。若き漁夫・昌大を演じたピョン・ヨハンは韓国ドラマ「ミセン-未生-」で全国区の人気を博し、日本でも藤原竜也、竹内涼真共演の「太陽は動かない」で謎のエージェントを演じた。
監督はイ・ジュニク。「王の男」はじめ歴史上の人物にスポットを当てた作品がある中、今回は渋沢栄一の孫、渋沢敬三が邦訳出版を目指した韓国の海洋生物本「茲山魚譜」の序文をもとに、「偉大な英雄の話ではなく、素朴な人々の物語が観客の心底に残れば」と語る。
第57回百想芸術大賞映画部門大賞作品。11月19日より、シネマート新宿ほか全国順次公開予定。
(森 啓造)