東京五輪会場、利用低迷で「負の遺産化」懸念
新設された都の6つの恒久施設、黒字見通しは1施設のみ
先に閉幕した東京五輪・パラリンピックで、東京都は約1400億円を掛けて新たに六つの恒久競技施設を整備した。このうち今後黒字運営が見通せるのは1施設のみ。新型コロナウイルスの影響で来場者が想定を下回る可能性もあり、「利用が低迷すれば負のレガシー(遺産)になる」との懸念も出ている。
「素晴らしい成果を挙げた東京大会のレガシーを生かし、ハードとソフトの両面で豊かな街づくりを進めたい」。小池百合子知事は8日、満足げに記者団に語った。しかし、競技会場の採算面では課題が山積する。
最多の567億円が投じられ、競泳などが行われた「東京アクアティクスセンター」(江東区)。再整備した上で2023年春に改めてオープンを予定する。世界最高水準という三つのプールやトレーニング室を有しており、選手の育成拠点にする計画だ。年100大会を誘致し、年間来場者100万人を目指す。
運営はすでに民間に委託されているが、試算では、今後の年間収支は6億4000万円の赤字。他の4施設と合わせると、年間の赤字幅は11億円程度に達する。都はネーミングライツ(命名権)導入や稼働率の向上などで収益性を上げたい考えだが、大会開催の1年延期などもあり、具体策は示せていない。
一方、年間収支が3億6000万円のプラスと、唯一黒字が見込まれるのが、バレーボールなどが行われた「有明アリーナ」(同)。今後は各種スポーツ大会に加え、コンサート会場としても活用でき、来場者は年140万人を見込む。
ただ、こうした試算はコロナ前のもので、都議の一人は「予測通りの需要があるのか」と疑問を呈する。1998年の長野冬季五輪で造られたボブスレー施設は、競技人口の少なさから赤字経営が続き、2018年に運用が休止された。都議は「不採算だとしても都民にどんなメリットがあるのか説明が必要だ」と訴える。
さらに、東京大会の大半が無観客開催となったことで、チケット収入約900億円はほぼ消失。財源をどう穴埋めするかという難題も抱える。都財政は一連のコロナ対策で悪化しており、都は大会組織委員会の決算が出る来年4月以降、負担割合をめぐり国との協議に持ち込みたい考えだ。