アフガン人協力者「私たちを見捨てないで」
日本政府に訴える悲痛な声、退避希望者は800人超か
アフガニスタンから米軍が撤退して1週間。イスラム主義組織タリバンが実権を握る同国には、日本政府に長年協力してきたアフガン人が取り残され、その数は800人超に上るとみられる。現地での活動歴が長い林裕福岡大准教授の元には、恐怖の中で日本政府に対し「見捨てないで」と訴える悲痛な声が寄せられている。
「日本政府は共に働いたわれわれを避難させてくれると思った。まだ希望は持っている。どうか助けてほしい」
国際協力機構(JICA)の現地事務所スタッフを長年務め、昨年契約打ち切りとなったアフガン人男性は林氏にインターネット交流サイト(SNS)でこう伝えた。男性は首都カブール陥落後、居場所を固定しないように親戚や友人宅を転々としている。
日本政府が国外退避の対象としたのは、在アフガン大使館やJICAの現職スタッフとその家族計約500人。だが、林氏らの聞き取りによると、それ以外にもJICAの元スタッフとその家族350人ほどが日本に救出を求めている。
この10年、日本の政府開発援助(ODA)削減により事業が縮小。これに伴い契約が満了したスタッフは多い。納税記録がアフガン政府に残っているとみられ、それがタリバン側に渡れば、「外国勢力」や旧政権に協力した者として敵視される恐れがある。
イスラム急進派の間では、日本が支援してきたポリオワクチン接種をめぐり「イスラム教徒を不妊化させるための陰謀だ」というデマさえ出回る。
既にタリバン兵の戸別巡回が展開され、居場所について近隣住民がただされたというJICA関係者もいる。「彼らは最初のうちは家具や車をせびってくる。そのうち奥さんや子供を要求してくるかもしれない」と林氏。タリバンが国際社会に見せる「穏健路線」は、末端兵士には浸透していない様子だ。
加藤勝信官房長官は6日の記者会見で「多くの現地職員が国内に残っており、出国を希望する方は関係国と連携しつつ支援していく」と強調した。しかし、大使館員や自衛隊機が去った今、救出に向けた動きは鈍い。
林氏は日本の海外支援について、現地の人も同じ作業着を着て平等に扱われる長所があったと指摘。日本政府に対し「できる限り手を広げ、日本に協力したアフガン人は誰も見捨てないというメッセージを出してほしい」と訴える。
◇林裕氏略歴
林 裕氏(はやし・ゆたか)1972年、福島県生まれ。東大院修了。日本紛争予防センターや国際協力機構(JICA)でアフガニスタンに計6年駐在。福岡大商学部准教授。専門はアフガニスタン地域研究、平和構築。