バイデン米政権、ASEANとの外交に本腰
ワクチン提供をアピール、4カ国連携に続き中国牽制
バイデン米政権が、東南アジア諸国との関係構築を加速させている。米政府は、「唯一の競争相手」と見なす中国に対抗する上で、日米とオーストラリア、インド4カ国の枠組み「クアッド」を重視する姿勢を明確にしてきたが、中国と経済面でつながりの深い東南アジア諸国の取り込みが、クアッド強化と並び重要だと発信し始めた。
ブリンケン国務長官は今週、オンライン形式で行われた一連の東南アジア諸国連合(ASEAN)の会合に出席。新型コロナウイルス対策で、ASEAN諸国に2300万回分のワクチンを提供したことをアピールした。
バイデン大統領は、同盟・友好国との連携を軸に、中国に対処していく方針だ。3月にクアッドのテレビ首脳会議を行い、4月には菅義偉首相を米国に招待。6月の初外遊では、欧州で先進7カ国首脳会議(G7サミット)、北大西洋条約機構(NATO)首脳会議に出席し、サミットでは台湾情勢などで中国をけん制する首脳宣言の採択を主導した。中国をにらみ、クアッド、日米同盟、米欧同盟という枠組みの強化を図った形だ。
バイデン政権にとって、ASEAN諸国への接近は、これに続く課題となる。バイデン氏は5~6月、ASEAN会合に先立ち、インドネシア、カンボジア、タイにシャーマン国務副長官を派遣。オースティン国防長官も7月、シンガポール、ベトナム、フィリピンを歴訪した。今月中には、ハリス副大統領が初のアジア外遊としてベトナム、シンガポールを訪れる予定だ。
東南アジア外交では、安全保障に加え経済面での関与拡大が焦点の一つで、中国の巨大経済圏構想「一帯一路」への対案となるインフラ整備支援が重要課題に浮上している。今秋開催予定のクアッドの対面首脳会議では、4カ国協調による東南アジア向け支援が議題になる可能性がある。
ただ、当のASEAN側には、地域が米中の「草刈り場」と化し、加盟国間の分断につながるという懸念も根強い。国務省高官も「米国か中国か選ぶよう求めたことはない。(ASEANが)中国と良好な関係を持つ必要があることを認識している」と配慮を見せる。米政府は、対中非難で同調するよう求めるより、信頼を回復させることを優先する構えだ。(ワシントン時事)