日本提案の国連総会決議「五輪休戦」伝わるか


世界で紛争が継続、厳しい現実も日本から平和を呼び掛け

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アフガニスタン難民で自転車女子のマソマ・アリ・ザダ選手=1日、スイス・エーグル(AFP時事)

日本提案の国連総会決議「五輪休戦」伝わるか

シリア難民でパラリンピック競泳男子のイブラヒム・アル・フセイン選手=6月2日、アテネ(AFP時事)

 世界は東京五輪開幕1週間前の16日から、日本が提案した国連総会決議に基づく「五輪休戦」の期間に入った。イエメンは内戦で「世界最悪の人道危機」(国連)に陥り、ロシアの軍事介入を受けたウクライナでは紛争が継続。アフガニスタンの反政府勢力タリバンは勢力を拡大している。平和追求の理念は必ずしも紛争当事者に伝わらず、現実は厳しい。

 ◇終わらない内戦

 2011年から続くシリア内戦は、12年ロンドン五輪時も収まらず、特に16年リオデジャネイロ五輪の際は過激派組織「イスラム国」(IS)と衝突が激化した。アサド政権が軍事的勝利を確実にしたが、反体制派最後の拠点の北西部イドリブ県では断続的な空爆で緊張がくすぶる。

 五輪でメダル獲得実績のないイエメンでは、サウジアラビアが後ろ盾のハディ暫定政権と親イランの武装組織フーシ派がこれまで何度も停戦の合意と崩壊を繰り返した。フーシ派は中部の要衝攻略を目指し、6月下旬の3日間で双方の110人以上が死亡。内戦は終わりが見えない。

 エチオピア北部ティグレ州では、少数民族ティグレ人と政府軍が対立。リオ五輪時には、弾圧を受ける最大民族オロモ人のマラソン選手がゴールで当時の政府に抗議するポーズを示して物議を醸した。東京五輪にはティグレ人の女性陸上選手も参加する見通しで、対応が注目される。

 ◇停戦違反が増加

 ウクライナ東部の紛争は、政府軍と親ロシア派武装勢力が衝突し、14年から死者は1万3000人を超えた。昨年7月に停戦入りしたが、今年から停戦違反が常態化。春にロシア軍が対ウクライナ国境付近に集結して緊張が高まった。

 状況は悪化しており、今月も政府軍の4人が死亡。停戦監視に当たる欧州安保協力機構(OSCE)関係者の8日の声明によれば「過去2週間で停戦違反が増加している」。ウクライナは158人の選手が東京五輪に参加予定で、うち東部ドネツク州出身者は14人。ゼレンスキー大統領は「(無観客でも)応援する同胞の姿を想像してほしい」と激励する。

 ◇届かない声

 バイデン米政権が8月末までの駐留米軍の全面撤収を決めたアフガン。これに乗じたタリバンが攻勢を強め、複数の州で州都を包囲した。和平交渉で優位に立って政権を掌握すべく、今月中旬にアフガン政府と協議に臨んだが、五輪休戦を訴える国際社会の声に応じたわけではない。

 アフガンからは5人が東京五輪に出場する見込み。練習環境に恵まれず、多くは外国で調整を続けた。本国代表とは別に難民選手団に加わる自転車女子のマソマ・アリ・ザダ選手はAFP通信に「自分のためではなく、アフガンのような国で自転車に乗る権利を持たない女性全員を代表したい」と意気込む。

 ◇日本から平和を

 五輪休戦の期間は、パラリンピック閉幕1週間後の9月12日まで。初日の今月16日には国際オリンピック委員会(IOC)のバッハ会長が広島を訪れ、平和を祈念した。グテレス国連事務総長はビデオメッセージで順守を呼び掛けた。

 ボズクル国連総会議長も先に声明を出し、大会が「平和や相互理解、善意を促進する手段」になると指摘。「全加盟国が五輪休戦の決意を示し、具体的な行動を取る」よう改めて訴えている。(カイロ、モスクワ、ニューデリー時事)