トランプ氏の黒人議員批判 民主党の“不都合な真実”突く

《 記 者 の 視 点 》

 「カミングス氏がボルティモア市民のためにほとんど何もしていないことは非常に残念だ」。トランプ米大統領がツイッターで、東部メリーランド州ボルティモアを選挙区とする野党民主党のイライジャ・カミングス下院議員を非難したのは7月末のことだ。メキシコ国境の不法移民収容施設の環境が劣悪だと批判したカミングス氏に腹を立てたためだった。

 「ネズミやげっ歯類だらけの汚さだ」――。トランプ氏はボルティモアのことをこうも罵(ののし)った。収容施設に文句を言う前に、自分の選挙区の劣悪な環境を何とかしろ、そう言いたかったわけである。カミングス氏は黒人であることから、トランプ氏の発言に「人種差別」との非難が巻き起こった。

 ボルティモアにはワシントン特派員時代に何度か訪れたが、一度、車で道に迷ってしまったことがある。廃虚のような住宅が立ち並ぶ治安の悪い地域に入り込んでしまったのだ。赤信号で停車しているほんのわずかな時間でさえ、いつ襲われるか分からないという恐怖感を覚えた。

 直接見たわけではないが、廃虚のような住宅街にはネズミがいるのは間違いないだろう。実際、害虫駆除業者の調査によると、ボルティモアは全米で9番目にネズミの多い都市だという。治安の悪さも全米最悪レベルで、貧困率も圧倒的に高い。

 ボルティモアのように犯罪や貧困に苦しむ米国の都市には、大きな共通点がある。そのほとんどで長年、民主党が支配していることだ。ボルティモアでは半世紀以上、民主党が市長の座を占め、カミングス氏は四半世紀近く、下院議員に選ばれてきた。

 ボルティモアの惨状を見れば、カミングス氏は地元市民の役に立っていないというトランプ氏の指摘には誰も反論できないはずだ。トランプ氏の批判はカミングス氏に対してだけでなく、各地で機能不全の都市を生み出してきた民主党全体への強烈なカウンターパンチと言っていい。

 この“不都合な真実”から有権者の目をそらすために、民主党が必ず持ち出すのが「人種カード」である。トランプ氏を「レイシスト(人種差別主義者)」とレッテル貼りすることで、問題の焦点を民主党の失政から人種差別にすり替えてしまうのである。

 オバマ前政権で大統領補佐官(国家安全保障担当)を務めたスーザン・ライス氏は、トランプ氏が「黒人や褐色の人を毎日のように攻撃」していると非難した。トランプ氏がツイッターなどで常に誰かを攻撃しているのは、ライス氏の言う通りだ。だが、ジョー・バイデン前副大統領ら白人の民主党大統領候補にも激しい攻撃を浴びせており、有色人種ばかりを標的しているかのように言うのは、明らかにミスリードである。

 黒人議員を批判すれば、人種差別の批判を浴びることは避けられない。だが、そんなことはお構いなしに、相手が誰であろうと攻撃するのがトランプ流だ。その意味では、トランプ氏はむしろ、全ての人種に平等ではないか、そう思うのである。

 編集委員 早川 俊行