“新”立憲民主党、掛け声だけの「政権の選択肢」
《 記 者 の 視 点 》
立憲民主党と国民民主党などが合流した新党、立憲民主党が15日、結党大会を開き、発足した。衆院107、参院43、計150人の大所帯となった野党第1党として、謳(うた)い文句通り「政権の選択肢」になれるかどうかは、国家的に見ても重大な問題だ。
その意味で、もっと注目が集まってもよかったが、安倍晋三首相の突然の辞任表明から始まる、自民党総裁選、菅義偉内閣の誕生という、想定外の政界大変動にのみ込まれて埋没してしまった。
しかし、そんな外的な要因を除いてみても、衆目を集めるに足る内容ではなかったのではないか。何よりも、“新党”にふさわしい清新さや情熱、危機感がまったく感じられない。結党大会の最後に壇上に上った党役員は、ほとんどがかつて見た「あの顔触れ」だ。
枝野幸男“新”代表のあいさつも、しかり。新代表は最近、コロナ禍で派遣の仕事を失い、退学を考えている苦学生から、ウェブヒアリングで「政治に私たちは見えていますか」と言われたことが「重くのしかかった」と言いながら、「誰よりも汗をかき、現場の声を聞いていく」「国民とともに国民のために、私は戦う」と訴えている。
しかし、さまざまな事情のため苦学したり、勉学を諦める若者がいるのは今に始まったことではない。そのような現実に不条理を感じたり、憐憫(れんびん)の情を覚えたりすることは、政治や社会運動を始める動機にはなるかもしれないが、当選9回で官房長官や野党代表を歴任した枝野氏からそんな話を聞くと、首をかしげざるを得ない。
そんな人たちのために何をするのか。返済不要の奨学金を画期的に増やすのか、大学まで無償化にするのか。国家財政や教育行政、家計の状況など、あらゆる要素を考慮して、かくあるべしという具体的な構想を示し、そのための法改正を進めるのが政治家ではないのか。
枝野氏が代表選挙で配布した政見には、より具体的な政策が盛り込まれている。PCR検査の抜本的拡大、所得税・消費税の時限的減免、金融資産課税の強化、危機管理庁(仮)の下に日本版CDCなど創設、森友事件など隠された公文書の公開、内閣人事局制度の見直し、行政内部事務のデジタル化、使途を限定しない自治体への交付金拡大、1次産業への個別所得補償の制度化と充実、選択的夫婦別姓・ジェンダー平等の推進、世帯単位の仕組みを個人単位へ再編成、辺野古新基地建設中止と地域協定改定を粘り強く交渉―などだが、大半は既に与党との論戦で出てきた内容で、従来の制度の補完や手直しにすぎない。
また、憲法改正についての記述はなく、安全保障については「健全な日米同盟を軸にアジア太平洋地域の国々との連携を強化」という、綱領が謳う原則的な話しか示していない。米中対立が激化する中で、どのような外交・安保政策を採るのかは、政権を担うために重要だが、具体的な言及を避けているのは残念だ。
綱領の中で唯一示された革新的な内容は「原発ゼロ社会を一日も早く実現する」という部分だが、これに関しても、最大の支持団体である連合と結んだ「共有する理念」では、「低廉で安定かつ低炭素なエネルギーシステムを確立する」にトーンダウンした。
掛け声とは違い、実態は「政権の選択肢」には程遠いと言わざるを得ない。
政治部長 武田 滋樹