ありがとう「こうのとり」 有人輸送のビジョン欲しい
《 記 者 の 視 点 》
国際宇宙ステーション(ISS)へ物資を届ける無人補給機「こうのとり」9号機が20日、任務を終了した。2009年の1号機から9号機まで、全てのミッションをほぼ完璧にこなし、有終の美を飾った。ISSへの輸送任務は今後、21年度中に打ち上げられる後継機「HTV-X」に引き継がれるが、改めて宇宙航空研究開発機構(JAXA)はじめ多くの関係者に「ありがとう」と言いたい。
「こうのとり」は11年の米スペースシャトル退役後、ISSに物資を送り届ける「宇宙の定期便」として世界から高い評価を得た。水や生鮮食料品も運び宇宙飛行士を喜ばすなど細やかな日本らしい気配りも示した。「世界に誇れる日本の国際貢献」だった。
筆者は08年暮れ、筑波にあるJAXAの宇宙センターを訪ね、「こうのとり」と命名される前の「HTV」開発責任者を務めた虎野吉彦氏に取材したことがある。
当時は主要な開発や環境試験を終えて、あとは翌年9月の打ち上げに向けた最終チェックと現地種子島での組み立て、届ける物資の詰め込み作業を残すばかりの頃だった。
印象深かったのは開発での苦労話で、「無人機が有人のISSに近づいていく時に非常に厳しい安全要求が課せられた」(虎野氏)ことだ。
軌道上で秒速7・7キロという高速で移動するISSにドッキングするには、HTVも同じ速度で接近しなければならず、しかもそれを無人で行わなければならないが、それまで「米国でも無人の宇宙船を有人の宇宙船にドッキングさせるという経験がなかった」(同)からだ。
日本が開発したISSへの接近、ドッキング技術は米国をして「ミラクル」と言わしめ、その後、米民間宇宙船「シグナス」に採用され、JAXAが支援するまでになった。
虎野氏への取材で、気付かされたことが二つあった。一つはHTVの将来の軌道間輸送機としての意義、つまり「宇宙に出てから、あらゆる軌道に物資を運ぶための輸送機…それを発展させると例えば月にも行けるし、火星にも行ける」(同氏)可能性だ。
後継となる「HTV-X」がこうした可能性を、日本が参画を決めた米国のアルテミス計画などで、どこまで反映できるか楽しみである。
もう一つは、有人宇宙に関する技術の蓄積である。食料や実験ラックを入れる与圧部は、ISSに接続後、宇宙飛行士が宇宙服なしで搬出ができる“準有人仕様”だ。日本実験棟「きぼう」もそうで、日本にないのは宇宙飛行士を運ぶ技術、帰還させる技術、長く生きさせる技術という。
虎野氏はそうした技術の習得に、「結構高いハードルと思うが、幸いにもISS計画に参加したことで、個人的には半分ぐらいは越えており、残り半分を開発していけばいいのではないか」と語った。10年以上前の話である。
米国の民間有人宇宙船が8月初めにISSから無事帰還したばかり。有人輸送は近い将来、宇宙旅行を見据えた基盤インフラになるだろう。
日本も有人輸送技術の取得まで、もう一歩である。改定宇宙基本計画は「将来における有人輸送の重要性に留意することとする」と含みを持たせたが、やはり、明確なビジョンが欲しい。こうのとりは任務を終えると大気圏に再突入させて燃やしてしまう。先の取材でも「もったいない」と思ったが、それ以上に「もったいない」と思うのである。
経済部長 床井 明男