感染症と性行動 リスク高めた解放運動
《 記 者 の 視 点 》
新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、多くの書店は感染症関連コーナーを設けている。店頭に並んだ中の何冊かを読んで、エイズをはじめとした性感染症が伝染病の中で重大な位置を占めていることを改めて実感する。
例えば、今年4月25日に出版された詫摩佳代氏(東京都立大学教授)の「人類と病」は、全5章の中に「新たな脅威と国際協力の変容――エイズから新型コロナウイルスまで」の章を設けた。
そして「本章では、近年新たに人類社会の脅威として確かな存在感を発揮してきたエイズ、サーズ(SARS)、エボラ出血熱、新型コロナウイルスに焦点を当ててそれらが感染症と人類との闘いにどのような変化を付け加えたのかを見ていきたい」と述べている。
石弘之氏(元国連環境計画上級顧問)の「感染症の世界史」も「性交渉とウイルスの関係――セックスががんの原因になる?」「エイズ感染は100年前から――増えつづける日本での患者数」などの2章を設定し、性感染症の脅威について詳しく解説している。
現在、日本では2人に1人ががんになり、3人に1人はがんで死亡すると言われているが、「感染症の世界史」によれば、世界のがんによる死亡の20%は、性交渉で感染するウイルスが原因だ。タバコが原因のがん死は全体の22%というから、石氏は「セックスはタバコ並みに危険」で「禁煙標語をもじれば、『セックスはいのちを縮める生活習慣』ということになるのだろうか」と述べている。もちろん、性行為そのものが危険というのではない。ウイルス感染リスクの高い行為が広がっているというのだ。
危険な性行為が習慣化した背景には、1970年代以降の先進国の「性の解放」がある。「ポルノが解禁され、性産業が盛況になった。婚外セックスやフリーセックスが盛んになり、ゲイが社会的に容認され、ウイルスにとっては絶好の環境になっていた」(石氏)。一方、途上国では「貧困」がある。売春の急増だ。
新型コロナとの闘いは、私たちに「行動変容」を促しているが、性感染症が人類にとっての脅威であり続けることでも分かるように「性欲」にまつわる行動を変えることは容易ではない。近年、増加する子宮頸がんも性行動の低年齢化によって、がんを引き起こすヒトパピローマウイルス(HPV)感染が拡大していることと深く関わっている。
エイズの症例が報告されて約40年になる。これまで世界でウイルス感染者は約7800万人、感染が原因で死亡した人は3500万人。昨年、わが国の新規感染者は891人で多くはないが、その7割は「同性間性的接触」によるものだった。
薬の開発とウイルス増殖を抑える療法で死亡率が低下していることもあって、わが国ではエイズへの関心が薄れているが、人類の脅威であることに変わりはない。コロナ禍で感染症への関心が高まる今、性行動の変容を促すため、特に若者層には性感染症の恐ろしさと、夫婦間の性行為のみが唯一安全であることを強調した方がいい。
社会部長 森田 清策