ポップカルチャーと児童ポルノ
《 記 者 の 視 点 》
見直されるメディア芸術センター構想
日本を代表するポップカルチャーの中に漫画とアニメーション、ゲームといわれるメディア芸術がある。
これらを一つにまとめ、商業芸術などに関する収集・保存・修復、展示・公開、調査研究・開発、情報収集・提供、教育普及・人材育成、交流・発信等を目的とした「国立メディア芸術総合センター」の建設計画があった。
しかし建設予算117億円が「無駄遣い」として、民主党政権となった2009年10月16日の閣議決定によって予算執行が停止された。これにより、事実上建設は不可能となり、構想は頓挫した。「アニメの殿堂」「国営漫画喫茶」と揶揄(やゆ)された総合センター構想。それから約10年たち、18年に超党派による議員立法で「メディア芸術ナショナルセンター」設置関連法が提出されるなど見直しが図られている。
09年当時、ほとんどのマスコミが廃止を訴えた施設の設置が、なぜまた叫ばれるようになったのか。実は、アニメーション製作者側からの強い要望があったからだ。アニメ「エヴァンゲリオン」などを手掛けた庵野秀明監督が中心となり、17年に特定非営利活動法人アニメ特撮アーカイブ機構が設立された。また15年には「超党派でつくるマンガ・アニメ・ゲームに関する議員連盟」(通称:MANGA議連)が設立され、20年設立を目指した「メディア芸術ナショナルセンター」設置関連法案が18年に提出したが未成立となった。
こうした動きが出てきた背景には児童ポルノ問題がある。
検討されている施設に入る作品の多くが、文化庁が主催する文化庁メディア芸術祭のアニメーション部門、漫画部門などの各大賞を含む各部門賞と推薦作品やまた貴重な歴史的な過去の名作や幻の作品を収蔵し残すことを目的としていた。その中には、宮崎作品や高畑作品といった世界的な作品も考えられていた。
国の機関である文化庁主催の芸術祭で選ばれた作品をナショナルセンターに収めることで、一定の基準ができる。そうすることで、「児童ポルノ漫画作品は国としては認めていない」ことを明確にすることができ、世界展開を見据える上でも、著作権などそれまでややずさんだった管理体制をナショナルセンターを通すことで、海外放送へ向けた権利関係の手続きなどを一本化し、日本のアニメ・漫画を紹介しやすくなる。
また、同芸術祭はこれまで22回開催され各部門の受賞作品や推薦作品は10万点近くあり、この作品群を収め展示する場所が必要になってきている。しかし、大学や民間施設、記念館といった場所にはあるが国の施設としては現在一つもないが、これと同じような建物はフランス、中国、韓国では国の施設として建設され、国が積極的に支援している。
09年当時、施設の建設に向け動いていた漫画家の里中満智子さんは「国が常設的な展示ができる施設を造れば、若いクリエイターの励みになる」と発言している。
日本の漫画やアニメは、もはやサブカルチャーではなくなってきている。スポーツ漫画に至ってはトップアスリートたちが憧れる存在になってきている。
だからこそ、いい作品を作り、残し、伝えて、発信する施設が今後を見据える上でも必要だ。
文化部次長 佐野 富成