安倍政権2年目のハードル、厳しさ増す国際情勢

世日クラブ新春対談

長野 対米バランス感覚を持て

木下 より強固な安保体制築け

 元衆議院議員で政治評論家の長野★也(すけなり)氏と本紙社長兼主筆の木下義昭が2月19日、世界日報の愛読者でつくる世日クラブ(会長=近藤讓良・近藤プランニングス代表取締役)で「安倍政権2年目のハードル~厳しさ増す国際情勢」をテーマに新春対談を行った。木下主筆がまず今年の主要国の動向を概観し、長野氏が政局を読み解くカギになる政界キーパーソンの人物評価を述べた上で、安倍内閣の主要課題について話し合った。以下はその抜粋。(★=示に右)

長野 おごりが最大のアキレス腱

木下 大局見据え日韓米一致努力を

 木下 安倍内閣の主要課題について。まず、オバマ大統領が4月に訪日するが、今の日米関係はあまりうまくいっていない。先生の見方は。

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政治評論家の長野すけなり氏

 長野 安倍政権の最大の問題点は、アメリカとの関係が必ずしも良好でないということだ。アメリカ政府が首相の靖国参拝に「失望した」と言ったが、これをあまり軽く見ない方がいい。今、アメリカの政府や議会関係者の中には、アメリカが作った戦後秩序への挑戦を安倍氏がしてきたのではないかという受け止め方が出ている。

 安倍氏とオバマ大統領はウマが合わないが、日米関係の不安定化につながらないようにするバランス感覚を安倍首相が持つことが非常に大事だ。

 木下 せっかく日本版NSC(国家安全保障会議)の設置、特定秘密保護法の制定などいろいろ整備してきているところなので、これからもう少し、いい意味の大人の付き合いをしていかなければならない。アメリカがああいうオバマ政権なので、(安倍内閣は)日米関係の基本についてなるべく誤解を与えない、崩さない振る舞いがあった方がいい。

 長野 要するにオバマのアメリカが変わった。今までのアメリカと違う、つまり世界の警察官をやめて国内のことに関心を持ち、TPP(環太平洋連携協定)では強引に主張を日本に押し付けてくる。そのような戦わないアメリカが結局、日米安保そのものを空洞化してしまう恐れもある。

 木下 アメリカが世界の警察国家という位置を失いつつあるので、その分、日本が代われるだけのよりしっかりとした安保体制を築かなければならない。そういうことを前提として付き合った方がいい。

 そんな中で沖縄の普天間基地の辺野古移設について、この間、名護市長選では現職の稲嶺市長が勝って非常に難しい状況にはあるが、どう考えるか。

 長野 要は秋の知事選だ。仲井真知事の後継候補の相手が那覇市長だ。この翁長(おなが)雄志という人はもともと自民党のエースで、これが自民党の反対派と基地そのものに反対している革新勢力を束ねて対立で出ていく。この選挙で(仲井真氏の後継が)負けると昨年暮れの仲井真氏の犠牲的な決断がまったく無意味になってしまう恐れがある。

 知事選までの間に、日米地位協定を補完する新しい協定を検討するとか、そういう取り組みをしっかりやらなければいけない。

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木下義昭本紙主筆(社長)

 木下 この間の名護市長選の結果を見た、ある地方議会の議長経験者は、自民党政府は名護市の市民、あるいは沖縄県民に対して予算付けとかそういうことじゃなくて、真心から接する仕方がミスったと言っている。政権党のおごりなどがあったら、人間は感情的な動物なのですぐ分かる。本当に真心から接していくことが足りなかったのではないか。名護市長選の結果を見ても極端な負け方ではなかった。知事選も、沖縄全体のことをきちっと考えて対応すれば、なんとか乗り切れるのではないか。

 次に、今、大変な日韓関係について、考えを伺いたい。

 長野 キーマンが李丙”駐日大使だ。朴槿恵大統領の側近で、外務大臣よりむしろ大統領に影響を持つといわれている。昨年から韓国でもマスコミで大統領の対日姿勢について批判が出てきて、水面下では首脳会談の根回しが進んでいたが、昨年暮れの靖国参拝を機会にまたおかしくなってきている。

 基本的には北朝鮮と向き合うための6カ国協議の枠組みを動かすことが近道だと思う。日米韓3カ国の連携を軸に6カ国協議をもう一回、以前の形に戻す。そのためにはアメリカとの呼吸合わせが大事だ。

 木下 冷え切っている日中関係については。相手は習近平(国家主席)という大変なつわものだが。

 長野 尖閣で譲るものは全くない。中国が強圧的に内部崩壊の可能性を抑えていって崩壊せずにまだ経済成長を遂げていくとなると、いわゆるアメリカと中国のG2の管理による新しい国際秩序を目指そうとしてくるのではないか。だからアメリカと、どう中国をコントロールして国家資本主義から普通の資本主義の国に導くかという協議を急ぐ必要がある。そうしないと米中がどんどん接近して日本が蚊帳の外になる恐れは十分ある。

 木下 中国はアメリカに、太平洋を二分して両国で押さえましょうと平気で語りかけている。絶対に、そういうムードをつくってはいけない。そのために、日本がもっとしっかりしていくべきだ。

 だからなおさら、集団的自衛権行使の憲法解釈をめぐって、せっかく内閣法制局長官に安倍首相の肝煎りの人を据えているのだから、解釈の変更を実現していかなくてはならない。

 長野 安倍内閣がやると決断すればできる。ただ、そのやり方を、公明党を切り捨てて擦り寄る「責任野党」を連立の中に組み入れるような乱暴な段取りでやると、大きな後遺症が残る。

 公明という政党もある意味したたかで、山口代表は断固反対、幹事長や大臣は少し柔軟になる。つまり、どっちに転んでも対応ができるように役割分担している。今までのいろんな安全保障の問題でも、最初反対だったものがOKになってきた。だから、安倍首相が公明党を切り捨てない形で、どうやってある限定的な、今よりも集団的自衛権を行使できる現実的なことをやるか。

 安倍氏は今年の夏がやはりワンチャンスだ。山口氏の狙いは、出てきた(安保法制懇の)報告書をずっと引き延ばしていって越年すると来年の春は統一地方選挙だ。そうなってくると、この問題がまた吹っ飛んでしまう危険性がある。安倍氏が集団的自衛権に懸ける自身の思いと与党内調整との兼ね合いをどう付けていくか。どう公明党を説得するのか。ここが非常に大事なポイントだ。

 木下 どうも山口代表と、そうでない公明党の幹部の様子を見ていると、また、他のいろいろな情報を合わせてみても、先生が予測されたように、この集団的自衛権の行使は安倍氏と同じ考えにいきそうだ。とはいえ、憲法の改正までは、これは当然、まだ難しい。

 長野 次の参議院選挙で改憲勢力が3分の2になれば、具体的にどういう内容をやるかという議論になってくる。安倍氏は今の集団的自衛権行使の議論が憲法改正の地ならしだと位置付けているのではないか。だから、もう少し時間がかかる話ではある。

 木下 集団的自衛権行使の憲法解釈の変更ができれば、これは将来的に、憲法改正に向けた大きな流れになっていきそうだ。

 次に安倍氏の最も重要な政策の一つになっている経済、アベノミクスについて――。

 長野 4月の消費税引き上げの後で、景気の腰折れを克服できるかどうかだ。私はある程度の落ち込みでしのげるのではないかと思っている。問題はその先の15年10月の(消費税率)引き上げを決断できるかどうかがポイントだ。

 アベノミクスについては、生みの親のアメリカにいる浜田宏一内閣官房参与が、アベノミクスはABEだと評価している。つまり、金融緩和はAプラス、財政出動はB、しかし3本目の矢の成長戦略はE(不可)だと。この成長戦略をどうするか。一時的な目先の景気対策とかカンフル剤だけに頼らず、成長力の強化を具体的にどれだけやれるかというところでアベノミクスの行方が決まる。

 木下 続いて原発については、私も都民の判断があったように、将来はなくなってもいいが、当然、当面は安全性を確保した上で必要であると思うが。

 長野 原発ゼロブーム、いわゆる細川・小泉劇場が盛り上がらなかったのはなぜか。やはり、都民は冷静で、原発は基本的には国政の問題として国会で徹底的に議論をして、だんだん比率を下げながら国際競争力とか経済にも国民生活にも影響を与えない形でベストミックスを作ってくださいよというのがあの結果だったのだと思う。

 木下 シングルイシューで郵政民営化を小泉氏はやったが、それは国民も、特に都民は懲りたのではないかと思う。

 次に教育問題では、ちょうど自民党が今、教育委員会改革をやっている。私もこれは評価していいのではないかと思うが。

 長野 公明党と今から実務協議に入るが、公明党の顔も十分に立てた案なので、私はたぶん、これが今国会で提案されて、責任が明確になるという意味で、この案で行けるのではないかと思う。

 木下 先ほどから既にいろいろ話されているが、与党の自民党と公明党との関係について。

 長野 今の選挙制度の下で公明党を切り捨てたら自民党は命取りになる。今は安倍氏の支持率も高いので、誰も安倍氏を面と向かって批判しないが、腹の中は景気が悪化してきたり、公明党と決裂したりした時は黙っていないよというのが本音だろう。自民党の代議士でも6、7割の人は公明党の下駄を履かなければ確実には当選できない。国会議員というのは自分のバッジが一番大事だから、公明党と分裂することになれば「安倍降ろし」が起こる。

 木下 野党がだらしない状況になっている。民主党の立て直しも無理のようだし、今度は100人規模の新勢力を目指し、維新、生活、結い、民主の一部などが動いているが。

 長野 具体的に次の衆議院選挙が見えてくるまでは、はっきり言って大掛かりな野党再編は難しい。今は野党再編どころじゃない。国会対策関係者と話してみると、「近年にない無風状態、通常国会は波乱なく進んでおります」という。なぜかというと、野党第1党の民主と第2党の維新が張り合って全く野党が分裂をしているためだ。

 民主の再生もなかなか厳しい。維新は大阪で市長選挙をやるが、自民、公明、民主、共産、誰も候補を出さずに空振りにしてしまう。維新も選挙のたびに拡大再生産してきたが、それが縮小均衡になっていくわけで、限界が見えてきたかなと思う。みんなの党は野党疲れしたので与党に入りたいが、自民党は満杯だから、選挙区で調整のしようがないのでウェルカムではない。みんなの党の方も、渡辺代表が入ろうとしても全員がついていくとは限らない。

 ――安倍政権のアキレス腱は何か。それは政権の終わりの始まりになるのか。

 長野 アキレス腱があるとすれば、安倍首相の自信が自信過剰になり、おごりになった時だろう。そういう意味で昨年暮れに会った時に、あなたも中曽根氏のように人の話をよく聞いて謙虚にやられるべきですよと申し上げた。

 木下 おごりとともに健康問題がある。時々、疲労が重なると顔色が土色の時がある。アメリカもそうだろうが、総理が健康を害して次にポストが俺に回ってくるかなという人が数人いるので、謙虚な姿勢を続けていくことが、また健康を害さないことにもつながる。

 ――安倍政権が長期政権になるとすればその条件は。

 長野 4月増税の後、ここがポイントだ。腰折れを何とかしのいでいけて、オバマの訪日もうまくこなして、内閣改造をやって人心を一新し、第3の矢の新しい成長戦略を、いわゆる岩盤規制を突破するようなものを生み出す。こうなってくると市場が付いてくる。これが楽観的シナリオだ。

 悲観的シナリオはその逆のケースだ。増税後、いろいろ対策をやったけど景気が悪化する。TPPでも追い込まれ、中国・韓国との関係もなかなか改善せずにオバマがそっぽを向く。そして、苦し紛れに内閣改造をやると、選んだ閣僚の中からスキャンダルが出てくる、という悪循環だ。

 出来るならば、対外関係を考えても長期政権が国益になる。

 木下 ひとつ申し上げると、プーチン大統領と安倍首相は仲がいい。もちろん、日本とロシアの関係は重要だ。また、日本とインドの関係ももちろん重要だ。ただ、それが日露印関係の方にずっと引きずり込まれていったら、これは大きな落とし穴になってくる。それに対抗してアメリカ、中国、そこに韓国、北朝鮮がまとまって入っていったら、これは非常に危険だ。東アジアはとんでもないことになっていくし、日本も命取りになる。

 だからあくまでも、難しいことはあるのだけれども、日本、韓国、アメリカという日韓米の方で、難しいことがあっても大局的な立場で将来を見据えて一致していくという、その努力を継続していかなければならない。

今年の主要国の動向 木下主筆

 米国 大統領の2期目は早い段階でレームダック(死に体)になるが、オバマも早くも下降線。今年は中間選挙があるが、民主党が下院で過半数を上回るのは難しい。

 次の大統領候補がそれぞれの思惑の中で走りだしており、米国は非常に弱い立場になってくる。

 第2期政権の陣容をみてもスーザン・ライス大統領補佐官はじめ親中派がずらっと並んでいる。米国の最終的な仮想敵国は中国だが、経済的に引きずられている。中国側も個別にうまくコントロールしている。中国べったりになると将来的に自分の首を絞めることになる。

 オバマ大統領は一般教書演説で、東アジアで特に重要な中国の軍拡や朝鮮半島問題、北朝鮮の危険性にほとんど触れていない。東アジア情勢にはほとんど関心がない。日本がしっかりしていかないと非常に難しい状況になる。

 中国 チャイナセブンと言われる7人のトップリーダー(共産党中央政治局常務委員)の内容をみると、昔の幹部の2世である太子党+江沢民の上海閥が結束して、6対1で胡錦濤前国家主席の影響力を排除して保守的政策をとっている。開放改革は今のところいいよ、自分たちが培ったり取り返した利権をがっちりと保持していくよという考えだ。胡錦濤に近い李克強首相が独り頑張っているが切り崩されている。

 習政権が当面、保守的な政策を続けていくことを前提とすると、日本に対しては領土や防空識別圏などの問題で絶対に譲らない。中国が嫌がることをはっきりと中国が諦めるまで日本政府が主張し続けるべきだ。それだけの強い政権が続かないとあぶない。

 ロシア 北方領土問題には3島返還論とか、2島返還論とか、3・5島返還論、共同管理などいろいろな案が出ているが、もともと日本の領土なので、できれば千島列島まで取り戻すのが筋だと思うが、この点も踏まえしっかり取り組んでいかないといけない。安倍首相と話はしようというプーチン大統領は“寝技”が得意なので気をつけないといけない。

 韓国・北朝鮮 領土問題やいわゆる慰安婦問題などいろいろあるが、未来志向でいかなければ、重箱の隅を突っつき合っていても日韓関係は良くならない。それよりは北朝鮮の核や拉致をどうするのかという方向にいくべきだ。

 民間で進められている日韓トンネルを造り、(半島を縦貫する)平和的道路を造って、北朝鮮を一気に開放していく方向も参考になる。

政界キーパーソンの人物評価 長野氏

 中曽根康弘元総理 レーガン米大統領、サッチャー英首相と共に時代が必要としたリーダー。国際性があり、大変な努力の人だ。後藤田正晴という官僚に睨みの利く、田中角栄の側近を官房長官に据えるなど、人の使い方も非常に上手だった。総理らしい総理という印象だ。

 総理時代に、官邸に入ると裸の王様になるので、中曽根をぼろくそに言っている話を持ってきてくれないかということで、週に1回は必ずレポートに書いて持っていった。非常に人の話をよく聞く謙虚さが長期政権につながっている。

 小泉純一郎元総理 常識にとらわれない無借金の強さがある。政治家は当選をするまでにいろんな方に物心両面お世話になっている。ところが人に借りを絶対に作らない人だ。小泉「4ない政治」というのがあって、迷わない、変えない、人の話を聞かない、人にものを頼まないの四つ。

 大変鋭い感性の持ち主で、キャッチフレーズづくりがうまい。ただ、総理の時もレポート、報告書は2枚だけ。それ以上分厚いものは読まない。つまり、物事をあまり深く考えず勘でものを言って、後は専門家任せという無責任なところがある。

 小沢一郎生活の党代表 戦後の政治家で3本の指に入る存在感があった。自分の頭の上にアンチの「反」が付いたのは、吉田茂、田中角栄、そして3人目が小沢一郎だ。今の小沢氏と昔の小沢氏は全く異質だ。消費税でも発言がぐるぐる変わって、政策も自分が権力を得るため、維持するための手段に使っている。小沢氏にも「4ない政治」があって、会議に出ない、電話に出ない、説明をしない、本音を言わないの四つ。時代的な役割は終わったのかなあと感じる。

 安倍晋三総理 1次内閣と比べて政策の進め方、人事、発信力もいいし腹が据わってきた。一度地獄を見ているのでこれは強い。1回目の失敗の反省の上によくやっている。

 菅義偉官房長官 ナンバーワンを目指さないナンバー2の強さがある。秋田から集団就職列車で上京して国会議員に這い上がってきた人なので非常に重心が低いし、どういう時もたじろがない。政策を決めていく時にも最初から口を出さず煮詰まってから決断する。後藤田さん以来の安定した官房長官かなとみている。

 石破茂自民党幹事長 総裁選挙の1位と2位が総裁と幹事長になったのは非常に珍しい。自民党のひとつの危機管理だが、二人が組んだのは非常に意味があった。予備選で勝っているのに、それを一切顔に出さないで支えている。プライベートの席でも一切野心を示さない。

 山口那津男公明党代表 公明党の代表は想像する以上に難しいポジションだ。連立を一方で支えながら、自民党とは異質な平和、福祉の党を目指す公明党の基盤となる創価学会の意向を生かさなければならない。その難しさをこなしている立場を官邸の方も考えていくべきだ。

 海江田万里民主党代表 経済に通じ漢文の才もあるがひ弱な浮草みたいな感じで、決断とか決然とするところがない。ゼロからの再出発の時のリーダーとしては力量不足。だが党には海江田降ろしの元気もない。強いて言えば、次は岡田克也氏。細野豪志氏は次の次を狙っている。

 渡辺喜美みんなの党代表 今、みんなの党は「喜美の俺の党」と言われている。親父(故渡辺美智雄元副総理)譲りのユーモア精神もあれば、なかなか切れるところもあるが、人を包み込む包容力や、異論を飲み込む懐の深さとかがない。野党疲れして連立の中に入りたいというのが、本心かもしれない。

 志位和夫共産党委員長 共産党のイメージを批判するだけでなくある程度代案を出すという、ソフトイメージに変えた。切り返しが非常にうまい、共産党にとっては非常に貴重なリーダーだ。